30年以内に70~80%は水増し? 「南海トラフ地震の発生確率20%説」は本当なのか!?
「30年以内に南海トラフ地震の発生する確率は70~80%」。これはわれわれがよく目にする定説だ。しかし本当は20%で、この数値が意図的に高く出されたものだとしたら......。そこにはどんなカラクリや意味があるのか? この事実に迫った記者らに聞いた! 【地図】確率論的地震動予測地図ほか * * * ■科学的根拠よりも防災意識を優先した! 「南海トラフでM8~9クラスの巨大地震が発生する確率は30年以内に70~80%」 これは政府の「地震本部(地震調査研究推進本部)」が発表しているデータだ。しかし、この数字は科学的根拠に乏しく〝水増し〟されたものだという。 『南海トラフ地震の真実』(東京新聞)の著者で、東京新聞記者の小沢慧一氏が語る。 「私が防災担当をしていた2018年2月に、南海トラフ地震の発生確率が『70%程度』から『70~80%』に少し上がりました。そこで、名古屋大学の鷺谷 威教授(地殻変動学)に注意喚起のコメントをもらおうと電話をかけたんです。すると『あの数字はえこひいきされて、水増しされたものです』と言うんです。 詳しく話を聞いてみると『南海トラフ地震だけ他の地域と計算式が違っていて、あえて予測数値を高く出している』『もし、他の地域と同じ計算式を使えば20%程度になる』『多くの地震学者はあの数値は科学的に問題があると考えている』とのことでした。 しかし、防災の専門家たちから『いまさら数値を下げるのはけしからん』と言われ『押し切られる形で70~80%になった』というのです。この話を聞いて私は仰天しました」 地震の発生確率の計算式は大きく分けてふたつあるという。ひとつが「単純平均モデル」で、もうひとつが「時間予測モデル」だ。鷺谷氏が解説する。 「日本はたくさんある活断層やプレートの沈み込み帯など、いろいろな所で大地震が繰り返し起こっています。 まず、その過去の大地震の発生履歴を調べます。まあ、過去といっても史料などからわかるのは、1000年くらい前までです。それ以前のことは地層などを掘り返して、地震が起きた痕跡などを調査します。すると『1000年前にここで大地震が起きた。その前は3000年前だ』という地震の繰り返しの履歴がわかる場合があります。 その履歴が複数回わかれば、その平均発生間隔を求めます。実際には、地震は必ずしも一定間隔で起こるわけではないのですが、単純化して平均の発生間隔を求めるわけです。そうすると、ここでは1000年に1回起きている。ここでは100年に1回起きているということがわかります。 そして、例えば100年に1回起きていたとすると、1年だとその100分の1ですから、地震の確率が一定だとすると、1年あたりの発生確率は1%になります。2年だと2%、3年だと3%、100年だと100%です。 地震は周期をもって起きると考える場合には、前の地震の発生直後は発生確率が低く、時間の経過に伴って確率が上昇します。いずれにしても、このような平均発生間隔に基づく計算モデルが『単純平均モデル』です。 しかし、南海トラフ地震の確率は、この単純平均モデルを使っていません。『時間予測モデル』を使っています。 南海トラフ地震が一番最近起きたのは1946年の『昭和南海地震』です。そのひとつ前が1854年の『安政南海地震』。その前が1707年の『宝永地震』。地震は同じ場所で繰り返す場合でもエネルギーが大きかったり小さかったりします。 放出したエネルギーが大きければ、それをためるまでに長い時間がかかりますし、小さければ短い時間でたまります。この放出したエネルギーに比例する形で、次の地震の間隔が決まるというのが『時間予測モデル』です。 すると、この時間予測モデルは地震のエネルギーがわからないと予測できません。南海トラフ地震で、その指数とされているのが、高知県・室戸岬にある室津港の隆起データです。 1月に発生した能登半島地震でも、海底活断層が最大約4m隆起しましたが、南海トラフ地震が発生すると、室津港の地盤が1mから2mくらい隆起することが知られていて、江戸時代から測定されていました。 宝永地震(1707年)の隆起量は1.8mで、次の安政南海地震(1854年)まで約150年かかりました。安政南海地震の隆起量は1.2mで、次の昭和南海地震(1946年)まで約90年でした。 そして、昭和南海地震の隆起量は1.15mなので、次の地震は88年後の2034年頃だろうという予測が成り立つのです。そこから、2013年に、30年以内に南海トラフ地震が発生する確率は60~70%(現在は70~80%)と発表されました。 ちなみに、単純平均モデルを使うと、南海トラフ地震の発生間隔は110年から120年で、30年以内の発生確率は20%程度になります」