「研究費を得るには仕方ない…」資金不足の若手研究者が陥りがちな想像を絶する研究方法とは?
想像を絶する速度で進化を続けるAI。その存在は既存の価値観を破壊し、あらゆる分野に革命をもたらしている。人知を超えるその能力を前に、人類はどう立ち向かうべきなのか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 それぞれの分野の最先端を歩む“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が人間とAIの本質を探る『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋して、新時代の道標となる知見をお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第27回 『日本の未来がヤバい…ノーベル賞科学者・山中伸弥が暴露する科学界の「驚きの実態」と「ユニーク」が一番大事と語るワケ』より続く
「阿倍野の犬実験」という落とし穴
山中 僕が大学院生のとき、先生に教えてもらった忘れられない言葉があるんです。僕がいた大阪市立大学医学部は大阪市の阿倍野区にあるんですね。僕たちの研究室は実験動物としてビーグル犬などを使っていたんです。その当時、助教授、今で言う准教授の先生に「山中君な、『阿倍野の犬実験』って知ってるか」と聞かれました。「何ですか、それ?」と答えたら、こんなふうに説明してくれました。 たとえばアメリカで「犬の頭をコツンと叩いたらワンと鳴いた」という現象を世界で初めて発見して論文を書いたとする。それは世界初だから「おお、すごい」となる。すると日本の研究者は、その論文を見て「アメリカの犬はワンと鳴くらしい。日本の犬はどうか調べてみよう」と日本の犬の頭をポンと叩いた。するとやっぱりワンと鳴いた。で、また論文を書いた。さらに、その論文を読んだ大阪市大の研究者が「じゃあ今度は阿倍野区の犬で試したらどうなるか」とやってみたら、やっぱりワンと鳴いた。それでも論文は書ける。 「山中君、そんな論文書きたいか?」と聞かれたので「絶対書きたくありません」と答えました。笑い話のようですが、でも実はこういう仕事が普通にまかり通っているのが研究の世界なんです。 羽生 そうなんですか。