対立の地に響く銃声、パレスチナ人男性は崩れ落ちた 病気の症状落ち着いた27歳女性は行方知れずに…イスラエルにも苦悩
地中海を臨む中東の国イスラエルを、国際社会が注視している。占領地であるパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが10月7日早朝、突然イスラエル側を大規模攻撃。戦闘員はガザに隣接する居住区の市民らを次々と殺害し、200人以上を連れ去った。 世界は当初、痛ましい被害を前にイスラエルの人々に圧倒的な同情を寄せたが、その雰囲気は時間を経ずに変わっていったようにも見える。イスラエル軍の連日の空爆でガザ市民の犠牲は24日時点で5700人以上と伝えられ、「国際人道法違反が起きている」(国連のグテレス事務総長)との声が高まる。 10月10日にイスラエルに入り、12日間にわたり取材した。家族や友人を失い途方に暮れる人々に出会った一方、イスラエルの占領地では抗議活動のパレスチナ人男性が狙撃され、崩れ落ちるのを目撃した。悲しみと憎しみの交錯する現場の様子を報告する。(共同通信=菊池太典) ▽「そんなにユダヤ人が憎いのか」
崩れかかった家屋の扉から中に入る。「これを見てくれ」。同行の兵士が指さした台所の床には、べったりと血痕が残っていた。イスラエル南部ベエリは、ハマスの襲撃を受けたキブツ(集団農場)の一つだ。あちこちの住宅の壁が黒く焦げ、放棄された乗用車の銃弾の跡が生々しい。人口約千人のコミュニティーは100人以上の住民が殺害され、壊滅した。 通りを歩くと随所に異臭が漂う。少なくとも8遺体が白い袋に入れられ、野外に横たわっている。軍によると、イスラエル側との交戦で死亡したハマス戦闘員だ。私が訪れたのは11日。その前日まで銃撃戦が続いていたという。 住民の遺体は既に収容が終わっていた。遺体捜索のボランティアに従事した会社員メンディ・ハビブさん(43)は「一生忘れられない悲惨な光景だった」と振り返った。 「後ろ手に縛られたまま焼かれた子どもの遺体の横で、母親とみられる女性が無数の銃弾を浴び、力尽きていた」。地下室に集めた住民を手りゅう弾で一度に殺害したとみられる現場もあったという。ハビブさんは「そんなにわれわれユダヤ人が憎いのか」と、ハマスを呪った。