「宗教」が研究を左右する⁉…“日本人より欧米人”の方が科学に惹かれる「意外過ぎるワケ」
想像を絶する速度で進化を続けるAI。その存在は既存の価値観を破壊し、あらゆる分野に革命をもたらしている。人知を超えるその能力を前に、人類はどう立ち向かうべきなのか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 それぞれの分野の最先端を歩む“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が人間とAIの本質を探る『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋して、新時代の道標となる知見をお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第30回 『「研究するならアメリカを学べ!」 ノーベル賞科学者・山中伸弥が、「寄付先進国」アメリカのカネ作りをまる裸に! 』より続く
一般市民の科学に対する意識の違い
羽生 日本とアメリカの違いについて考えると、アメリカでは、科学というものに対して研究者・技術者と一般市民との距離が近い傾向があるんでしょうか。 山中 確かに距離は近い感じがします。アメリカには科学に対して興味のある人がすごく多いですね。それはどうしてなんでしょうか。アメリカの航空会社の飛行機で客室乗務員の男性と会話する機会があったんですよ。 「職業は何をされているんですか?」「サイエンティストです」「どんなサイエンスですか?」「ステムセル(幹細胞)です」「おお、ステムセル! それはすばらしい!」とけっこう会話が弾むんです。日本はなかなかそこまで行かないですね。 羽生 ノーベル賞を受賞した山中先生とはまったく知らずに話しかけているんですね(笑)。 山中 もう気楽に(笑)。向こうには『サイエンティフィック・アメリカン』という科学雑誌がありますが、それは空港の売店に普通に売っています。けっこう売れていますよ。日本にもそれに相当する雑誌はいくつかありますけれども、そもそもそんなところには売っていません。 羽生 確かにキオスクには置いていませんね。
欧米は科学の背後に宗教がある
山中 アメリカは政権によっても、生命科学研究に対する政策が違いますからね。 羽生 共和党と民主党で研究への姿勢がまったく違うんですよね。 山中 全然違います。共和党はどちらかと言うと、あまり科学を重視しない。キリスト教原理主義を背景に、進化論をまともに信じない党員や支持者が少なくありません。もちろん、進化論が科学的に証明されたわけではありませんが、根本的な科学の認識がそもそも違います。 羽生 そうした科学論が政策論争になっているから、科学そのものが一般市民に浸透していくのではないでしょうか。 山中 そうかもしれないですね。地球温暖化や人工妊娠中絶、進化論などが大統領選の争点になるくらい、もめるわけですから。 羽生 でも反対する州があっても、賛成する州があるから、結局、研究はちゃんと進んでいくということでしょうか。 山中 それはあるんです。アメリカは「合衆国」というだけあって、国の権利はわりと制限されていて、国がダメと言っても州がOKを出したり、その逆もあります。 羽生 iPS細胞を作ったことに対して、ローマ法王庁がコメントを出しましたね。「難病治療につながる技術を、受精卵を壊さずに行えるようになったことはすばらしい」と。日本人の感覚では、ちょっとピンと来ないというか驚きました。やはり欧米では非常に大きなテーマなんですね。 山中 はい。ES細胞研究については、当時のアメリカのブッシュ大統領が拒否権を発動して、使用に反対していました。 羽生 欧米では、科学の背後に宗教があるようです。
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/羽生 善治