マット・デイモンと共演。ケイシー・アフレックが語る最新作『インスティゲイターズ』
マット・デイモンとケイシーアフレックが共演した『インスティゲイターズ ~強盗ふたりとセラピスト~』がApple TV+で配信されている。本作はふたりがコンビを組む“バディもの”でありながら、タイトルにもある通り、そこにセラピストが加わることで物語が予想外の方向に転がっていく。 【画像】その他の写真 本作はいかにして生まれたのか? 出演だけでなく脚本も手がけたケイシー・アフレックに話を聞いた。 アフレックは俳優として活動する一方、映画監督、脚本家としても活躍しており、本作ではドラマ『CITY ON A HILL/罪におぼれた街』のクリエイター、チャック・マクリーンと共同で脚本を執筆した。 マット・デイモン演じる中年男性ローリーは人生に行き詰まり、セラピーに通いながら、疎遠になっている息子と会うことを目指している。金が必要な彼は前科のある男コビー(ケイシー・アフレック)とコンビを組んで、市長が選挙戦のために不正に集めた大金を強奪する計画に挑むが、計画は次々に破綻し、ふたりは警察に追われるハメに。彼らはローリーが通うセラピストを巻き込みながら逃亡を重ね、ボストン市長、警察、裏社会の勢力が加わり、物語はふたりの想像もしない方向に転がっていく。 「僕は『スティング』や『ミッドナイト・ラン』みたいな昔ながらのバディ(相棒)コメディが大好きなんですよ」とアフレックは語る。 「本作ではそこに何か新しいエネルギーを加えたくて、セラピストを混ぜることにしたんです。そうすることでよりユーモアが注入できるし、物語としてはセラピストを入れることでふたりの危険度は高まる。ドラマ的に面白くなると思いました。 脚本を書く上で参考にしたのは『明日に向かって撃て!』のリズムとトーンです。どこか愛情を感じるようなやりとり、主人公ふたりが口論したり、ケンカしたりシーンは似てるところがあると思います」 アフレックが書いた脚本は、マット・デイモンと実際に演じる過程でさらに洗練され、変化していったという。 「作品の構想から、脚本の執筆、実際に撮影に入って演技する過程で少しずつ進化していきました。僕の個人的な印象ですが、マットは真面目で知的、頭脳派のキャラクターを演じるのが好きなタイプだと思うんです。結果、彼がこの役を受けてくれたことで、ふたりの側面(生真面目なタイプのローリー=マット・デイモンと、場をかきまわすタイプのコビー=ケイシー・アフレック)がよりハッキリと出るようになりましたね。 僕もマットも、徹底的に準備をすることが役に立つと信じているタイプですから、ふたりで徹底的に話し合いをしました。もうこれ以上、話すことはないんじゃないか? というぐらいに(笑)。彼と延々と話し合ってる時は、まるでグルグルと円を描いているみたいで、自分たちはいまどこにいるんだろう? と悩む時もあるんですけど、この作業は農家の人でいえば、土壌を何度も何度も耕している状態。そうすることで土に空気が入り、土が豊かになり、良い作物が育つと思うんです」 劇中のローリーとコビーのやりとりは本当に面白い。ふたりは単なる凸凹コンビではなく、ちょっとしたやりとりや会話でドラマを生み出していく。物語の行方も気になるが、デイモンとアフレックのやりとりを観ているだけでも時間が過ぎていく。 「僕の脚本のスタイルは、自分が役者であること、それもリアリズムを好む役者であることから生まれたと思っています。本作ではそこにダグが加わったことで、彼のリズムやトーンも加わりました」 本作に別のトーンとリズムを加えたのが、メガホンをとったダグ・リーマンだ。 「彼はアクション映画をたくさん手がけていますが、同時に人間関係を描くことが好きなんです。『スウィンガーズ』では友情が、『Mr.& Mrs.スミス』ではカップル(夫婦)の関係が描かれていましたよね。彼はアクション描写と同じぐらい人と人の関わりを描く物語に興味があるんだと思います。彼の初期の作品は、低予算でユーモアのすごく効いたドラマがすごい早いペースで視覚的に描かれていました。だから、ダグはこの脚本にも興味をもってくれると思ったわけです」 さらに劇中には、ホン・チャウ、アルフレッド・モリーナ、ロン・パールマン、トビー・ジョーンズら個性派キャストが続々と登場。もちろん、リーマン監督得意のアクションシーンや銃撃シーンも描かれる。 ちゃんと見せ場もあって、練った脚本があって、俳優の演技で観客を魅了する作品。かつては映画館でこのような作品が楽しめたが、近年は映画ファンが愛する良作はネット配信されることが増えている。 「僕が映画をつくるようになってからずっと“映画は死んだ”というようなことを誰かが言っています」と、アフレックは語る。 「小規模な映画はもう作られない、とか、低予算でも超大作でもない中間の予算の映画はもう作られない、とかね。一方で、もう超大作映画は望まれていない、という人もいたりして……こういう言葉はずっと言われてきました。映画の世界というのは、こういうことが巡り巡っていくものなのでしょう。その中で近年、配信会社がスタジオの代わりになりました。僕は映画館が好きですが、配信の会社が映画制作に興味を持っていることに関しては、とてもうれしく思います。だってアマゾンは配送会社で、アップルはテック系の会社で、本業だけにとどまっていてもいいのに、映画やドラマをつくることに何らかの価値を見出しているわけですから」 本作が配信されるApple TV+は近年、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』や『ナポレオン』など、映画ファンが気になる作品を次々に配信しており、映画ファンの注目も高まっている。 「Appleは映画監督をすごくサポートしてくれる会社です。脚本家として見ても、普通のスタジオであれば指示やリクエストがあるものですが、Appleはそういうものはありませんでしたし、映画のマーケティングでも必要なものやリソースをすべて用意してくれてサポートしてくれました。Appleの良いところのひとつは、それが配信用の作品であっても、映画館で上映をしていることです。そして、劇場での公開が終わったら、100か国以上で同時に、Apple TV+で作品を届けられるわけです。ちょっと信じられないぐらいです。耳にした統計では、世界中で10億のスクリーン(画面)で観られるようになるらしいんです。iPhoneなどを持っている方であれば、誰でもその作品を観られるわけですよね。 自分は映画作りをしながら育ってきて、完成させた作品が50スクリーンとかで掛かっていれば『やった!』という風に思いながら今まで来たわけですよね。だから10億と言われると……本当に信じられないんです」 Apple Original Films 『インスティゲイターズ ~強盗ふたりとセラピスト~』 Apple TV+にて配信中 画像提供 Apple