阪神・原口と西武・森は名捕手不在の時代に終止符を打てるのか
里崎氏は「首脳陣の起用法がカギ。我慢して使うことができるのかが問題になる」という意見だ。 「本人の能力の問題でしょうが、捕手の成長には経験値が重要になります。これまでも森を捕手として育てるなら、まずファームで全試合出場すべきだと主張してきましたが、来年は、1、2軍で、最低でも80試合、720イニングはマスクをかぶる必要はあるでしょう。捕る、投げる、止めるの捕手の基本スキルを会得するのが最低限のノルマです。これを練習で反復して試合で実践していくのですが、捕手は時間のかかるポジションです。そして捕手には準備の仕事量が増えます。バッテリーミーティング、試合直前のブルペン、試合後のビデオを見返しての配球の反省と、やることが増える中で、今のバッティングをキープできるかどうか。これも未知数の部分です。例えば、大量失点してしまった次のイニングの先頭打者になると、準備もできず、気持ちの切り替えも必要で、指名打者の打席とはわけが違ってきます。炭谷という正捕手がいる中で、森が使われるにはバットで結果を残さねば難しいでしょう。首脳陣がどこまで我慢できるかという点もポイントです」 一方、今季センセーショナルなデビューを飾った阪神の原口も、「来年は捕手で勝負したい」と契約更改後の会見で決意を語ったが、チーム事情は、大きく変化している。オリックスからFAで糸井嘉男を獲得したため当初、右翼の福留孝介の一塁コンバートが予定されていたが、本人が、右翼勝負を希望したため、金本監督は、それを受け入れ、一塁コンバートを先送りした。しかも、すでに一塁のマウロ・ゴメスとの契約を更新していなかったため、一塁が空白となり、今季9試合守った原口の一塁起用が有力視されているのだ。 原口の可能性について里崎氏は、こんな指摘をする。 「原口は、捕手としては、そもそも構えという基本からできていませんでした。お尻が落ちてしまっていてブロッキングやスローイングにまで悪影響を与えていました。でも、そこは教えれば修正のできるノビシロです。肩の弱さも問題視されていますが、これもステップワーク、捕ってから早くスローイングに移行する技術を習得すればクリアできる話です。打撃は、パワーも含めて非凡なものを持っている選手です。打てる選手の捕手技術を伸ばす、という名捕手になれる条件を兼ね備えています。セ・リーグの場合、8番・捕手、9番・投手という並びが得点力を下げることにつながっているので、打てる捕手を打線に並べることができればチームにとっても大きな戦力アップとなります。原口が一塁へコンバートされるならば、せっかくの機会を逃すことになって残念ですが、そういうポテンシャルを持った捕手なんです」 原口は、近年では巨人の阿部や、ソフトバンク、阪神でプレーした城島に続くような“スラッガー捕手”になれる可能性を持っている逸材。せっかく金本監督が掘り起こした“眠っていた戦力”を正捕手として育てられないのが、阪神のマネジメントの限界かもしれないが、森、原口の2人には、名捕手不在の球界の流れにピリオドを打つ期待と可能性があることだけは間違いない。 ノムさんは、いつも口癖のようにこう言っていた。 「強いチームに名捕手あり」 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)