上田誠仁コラム雲外蒼天/第41回「箱根駅伝100回大会の背景にあるもの~101回大会へ繋げるために~」
関東学連の上田誠仁駅伝対策委員長(山梨学大顧問)による特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! ********************** あの日が始まりであった。 【連載】上田誠仁コラム雲外蒼天/第40回「いよいよ100回目の箱根駅伝!~山梨の地からすべての学生ランナーへエール~」 1920年2月14日午後1時スタートラインに並んだのは早大・慶大・明大・東京高師(現・筑波大)の4大学。記念すべき第1回大会の号砲と共に代表4名の選手たちは信じる未来へと駆けだした。 そして2024年1月3日。100回目の学生たちが信じる気持ちを未来へ届ける襷の継走が終了した。 その名も通称「箱根駅伝」。 創設に至る情熱や苦難の過程は100年前を知らぬ私が論を述べるには憚(はばか)られるが、金栗四三・沢田英一・野口源三郎(敬称略)を中心に学生たちの熱い息吹と行動力があったことは事実である。まさに敬服の至りであり、いかに時代が変われども、その熱い息吹が継承される大会でなければならないだろう。 しかも、100回の歴史を積み重ねてきたことを振り返れば、時代の波に翻弄されながらも、創意と工夫を加えながら学生たちの力を結集して乗り越えてきた経緯も見逃してはならない。 箱根駅伝開催1年前の1919年に、関東学生陸上競技連盟(以下、関東学連)は日本で最古の学生競技団体として設立されている。戦後復興過程の中でいち早く開催されたのが関東学生陸上競技対校選手権大会(以下、関東インカレ)であり、その後数々の交渉を乗り越え箱根駅伝の再スタートが切られている。 (※すでに関東インカレは3年前の2021年に100回の記念大会を終えている) 箱根駅伝の開催は、関東学連の設立なくしてありえなかったことは事実であるから、箱根駅伝の歴史とともに関東学連の歩みがある。 今年度の関東学連年間業務カレンダーを振り返ると、下記のような大会が並ぶ。 5月 関東インカレ 6月 全日本大学駅伝関東地区選考会 7月 網走夏季記録挑戦競技会、トワイライト・ゲームス 9月 関東学生新人、関東大学女子駅伝 10月 箱根駅伝予選会 11月 10000m記録挑戦競技会 1月 箱根駅伝 3月 春季オープン競技会 これら競技会の開催に向けての競技場の決定および審判・補助員の依頼など、開催準備・大会運営・終了後の各種事務処理や記録申請など多岐にわたる業務を行いながらも、年間を通して箱根駅伝の準備・運営にも携わっていただいている。 その他にも強化合宿や海外派遣事業、日本学連主催の日本インカレ・出雲駅伝・全日本大学駅伝・日本学生個人選手権の運営協力など多岐にわたっている。 箱根駅伝関連に焦点を当てれば、予選会で使用させていただいている陸上自衛隊立川駐屯地や昭和記念公園の借用交渉や、立川市内の道路使用許可申請。箱根駅伝では大手町から箱根・芦ノ湖までの道路使用許可申請、各中継所での施設利用申請、通過する自治体との運営協力のお願い。大手町・芦ノ湖での各大学の応援団活動をさせていただくビルや駐車場の借用申請に至るまで奔走していただいている。 近年は応援団の活動する場所近くで声援を送りたいと考える方が多くなり、人の流れが滞る状況が散見されるようになってきている。警視庁や神奈川県警からの指導もあり、専任の警備員を各大学2名配置し、人の流れが滞らないようにすることと車道に人が溢れないように担当していただいている。今回は23校2日間で184名の警備員を手配したことになる。 箱根駅伝2日間では加盟各大学にご協力いただき、学生補助員を約2000名派遣していただいている。大会プログラムをお持ちの方ならぜひページをめくっていただきたい。すべての補助員の氏名が記載されている。競技運営と審判および交通規制担当者には、誰がどの場所を担当するのか、そして誰が責任者となるのかも事前に知らされてくる。 コース上での交通規制のみならず、沿道と沿線での交通網を利用しての移動と人流整備を含む安全の確保は、年々ハードルが高くなる思いである。 学生補助員と走路審判員およびセコムなどプロの警備員の配置は前回大会の課題や反省点を踏まえ、手直しと協議を重ねつつ、警察官の交通規制態勢が整えられてゆく。なるべく一般の道路利用者や地元の住人の方々にご迷惑がかからないよう、片道100kmを超えるコースを最小限の交通規制で運営する工夫と体制を整えてゆく。 大正時代では箱根山中で松明を灯しながら走り切ったとの逸話が残っているが、時代の流れとともに交通事情など安全の確保第一で運営してきた歴史が刻まれつつ、今日を迎えていると言える。 数々の配慮のうち報道各社も自主的に御協力いただいていることも見逃せない。 特別後援いただいている日本テレビ放送網は、各中継所のテレビ中継カメラを設置する櫓(やぐら)に箱根駅伝のロゴを印刷した幕は張らない方針を示していただいた。その幕があると、どうしても記念撮影等で人の流れが滞ってしまい、安全確保の障害となるからという。 また読売新聞社・報知新聞社は、沿道で配布する小旗を今大会より各中継所の前後1kmのみに留めていただいた。それは、関東学連として安全確保のため各大学に幟(のぼり)や小旗の掲出は自粛していただくようにお願いしていることを受けての判断だそうだ。まずは共催の読売新聞社・後援の報知新聞社が率先して自主規制させていただくことで協力したいとお聞きした。 マスコミだからとて、華やかな見てくれを優先するのではなく、大会本来の在り方を示す“心意気”を示していただいたと感じた。このことはスタート前に、これから走り出す選手の“心意気”を示す眼差しと同じものであり、その結果襷リレーを終えた時の“心映え”した表情に繋がるのではないかと思えた。 100回記念大会が無事終了し、すべての選手関係者の心映えを力の源として101回大会は新たな心意気を示す大会となるよう期待している。