日テレ系番組「どうなの課」は、なぜTBSに"移籍"したのか…テレビ局と制作会社の「上下関係」に起きている大異変
■人材と企画を疎かにしてきた「ツケ」 その原因は、テレビ局に長年蓄積された「ヒトやモノの還流不全」にある。「人材と企画を疎かにしてきたこと」の「ツケ」が廻ってきたのだ。 テレビ局という組織は現場のクリエイターを軽んじ、ないがしろにしてきた感がある。今回の事件もしかりだ。もし「どうなの課」の担当Pが、会社から「今回は会社の事情でいったん終わるけど、必ずリベンジしよう」「頑張って特番で復活させよう」というふうに言ってもらっていたら、ここまでこじれることはなかっただろう。 ヒトやモノを効果的に還流しきれていないテレビ局の構造的な欠陥や古い体質、人材や企画に対する無頓着さという「膿」が、配信との過当競争時代に直面したことで一気に噴き出したのだ。 テレビ局はこれまでのように「メディアの雄」という存在ではないことを自覚するべきである。テレビの「寡占化時代」はとっくに終わっている。そしていまこそ謙虚になり、原点に立ち戻り、視聴者や現場のクリエイターたちからの信頼を取り戻す努力をするべきだ。そうでないと、本当にそっぽを向かれてしまい、「裸の王様」化してしまう。いや、すでにそうなりつつあるのだ。 具体的には、「コンテンツ・ファースト」「クリエイター・ファースト」の考え方に一日も早くシフトし、コンテンツ(企画)や現場のクリエイターをどう厚遇してゆくかといった施策を練るべきだ。そのためには、企画立案者との詳細な契約書の取り決めなども必要になってくるかもしれない。 ■テレビ局の事情を視聴者に押し付けてはいけない 「よい企画」や「よい番組」というのは打出の小槌のように次々に簡単に生み出せるものではない。現場のクリエイターは丹精を込めて企画を練り、日々、それを精査することを怠らない。そういったたゆまない努力から企画が生まれることを局の経営陣は理解するべきだ。 制作会社にとっても「企画は命」だ。自社企画として成立した番組を簡単に終了されたくないのは誰しも同じである。地上波だけではなく、インターネット上の配信の場にも映像ビジネスの商機が広がった。そのため、「よい企画」が足りない。枯渇しようとしている「コンテンツ」という「宝物」をテレビ業界“全体で”守ってゆく試みが必要である。 自局の事情もあるだろう。資金的やほかの事情で番組を続けられないときもあるに違いない。そんなときには、貴重な企画をほかの場所で有効利用してゆくこともありなのではないか。 いま、テレビ業界は「戦国時代」にある。その正念場を皆で力を合わせて乗り切るためにも、自局のことだけを考えていてはいけない。そこに必要なのは優れたコンテンツは「共有」するという考え方だ。それが、現場で日々汗を流して頑張っているクリエイターたちという「ヒト」を活かす一番の道なのではないだろうか。 ---------- 田淵 俊彦(たぶち・としひこ) 元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。 ----------
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦