春闘で注目「ベア」って何?/木暮太一のやさしいニュース解説
賃上げを容認する理由とは
労働組合側は、労働者の立場を代表していますので、当然「給料を上げろ! ベースアップを要求する!」と主張します。これに対し、経団連が「いやいや、そうは言っても経済環境は厳しいよね」と反論するのが、ここ数年の常でした。 ただし今年は、企業側も賃上げを容認する考えです。 ―――「お、すごいね。でも、なんで??」 理由は大きく分けて2つあると思います。 ひとつは、円安・株高で企業業績が回復してきたこと。 もうひとつは、政府から「従業員の給料を上げなさい」という賃上げ要請が来ていること。 昨年から始まったアベノミクスでは、国民の給料を上げることを大きな目標の一つに考えています。そのために安倍総理自ら企業に働きかけて、賃上げをするように要請してきました。その結果が現れていると考えられます。 6年ぶりに経団連が「ベア」を容認したのは、これは政策の成果として評価をしていいと思っています。 ―――「やった! これでうちの会社も基本給が上がるんだ!」
中小企業が従うとは限らない
ただ、じつはそうとは言い切れないんです。 というのは、経団連の考えはあくまでも「方針」だからです。企業の代表である経団連(日本経済団体連合会)と各労働組合の代表である連合(日本労働組合総連合会)が全体の方針について争います。そこで決まった内容を「方針」として、全国の企業が「じゃあ、うちはどうしようか」と考えるんです。だから、従う義務はありません。 ―――「え!? そうなの??」 それに、経団連は、いわば「大企業のグループ」です。大企業が、大企業の事情を踏まえて判断しているケースが多いと言えます。 そのため、その大企業の方針に中小企業が従うとは限りません。というより、中小企業まで給料アップの流れが波及するとは考えづらい状況です。 日本の企業のうち、99%が中小零細企業です。また、中小零細企業で雇われている人が、全体の約7割と言われます。 経団連がベアを容認したといっても、まだ終わりではありません。国民全体が賃上げの恩恵を受けられるような政策を引き続き期待したいです。 ----- 木暮 太一(こぐれ・たいち) 経済ジャーナリスト、(社)教育コミュニケーション協会代表理事。相手の目線に立った伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学などで多くの講演活動を行っている。『今までで一番やさしい経済の教科書』、『カイジ「命より重い!」お金の話』など著書36冊、累計100万部。最新刊は『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』 。