9回4点を追いつかれた江川卓は宇野勝に「騙すなよ」と言った ドラゴンズ史に残る伝説の1982年9月28日・巨人戦
ペナントレースも大詰め、残り7試合の首位・巨人に2.5ゲーム差の2位中日は、16試合を残しているとはいえ、この巨人との3連戦を最低でも2勝1敗で勝ち越さないと優勝の目がなくなるという天王山のカード。 巨人・江川、中日・三沢淳の先発で始まった試合は、初回に5番・原辰徳の29号スリーランで先制した巨人が、6回を終えたた時点で6対1と大きくリード。ここまで19勝でハーラーダービートップの江川は7回裏に5番・大島康徳にソロアーチを浴びるも、6対2と4点リードのまま、最終回のマウンドに上がった。誰の目から見ても、江川の勝利は揺るぎなかった。 宇野が振り返る。 「中日ベンチも逆転というイメージはなく、代打の豊田(誠佑)さんが三遊間ヒット、ケン・モッカがライト前、谷沢(健一)さんがレフト前に弾き返し、ポンポンと連続ヒットでつながったけど、『いくぞ、追い越すぞ!』といった雰囲気はなかったと思います。ただ、なんだろう......『あれ、続くじゃないか』となって、選手のほうも次第に盛り上がっていき、江川さんに向かっていったと思います。 大島さんがセンターへ犠牲フライを放ち1点を挙げ、次に僕の打席でストレートをレフト線に打ったのはよく覚えています。江川さんにとっては1点を還され、ランナー二、三塁になったことが痛かったでしょうね」 その後、中尾(孝義)がライト前に弾き返し、ふたりが生還して同点。そして延長10回裏、中日は大島のタイムリーでサヨナラ勝ちを収め、2位ながら「マジック12」が点灯した。 【どの攻略法も通用しなかった】 「翌日、球場で江川さんにあいさつすると、『騙すなよ』みたいなことを言われたんですよ。多分、モッカ、谷沢さんが逆方向に打ったので、僕も打席に入る前に右方向に打とうというようなスイングをしていたんですかね。江川さんはインハイのストレートで三振を狙っていたと思うんですよ」 この時、中日打線がすべて真芯で捉えているのを見て、江川はサインが盗まれていると思ったという。このことを宇野に告げると、「サイン盗みは、絶対にない。もしそうだったら、今ここではっきり言うし、なによりそれまで3三振もしてない」と完全否定した。