なぜ歴史から忘れかけられていた武将「仙石権兵衛」を主人公にしたマンガが1000万部超売れたのか? 歴史マンガの定石は、“ちょうどいい匿名性”にあり?
なぜ「仙石権兵衛」が主人公として選ばれたのか
大きなコンセプトが決まったので、その次に考えたのは「主人公」を誰にするかということ。「仙石権兵衛」という主人公にいかにして辿り着いたのかということを振り返ります。 そもそも主人公選びは本当に難航しました。はじめは「桶狭間合戦」を眺めて戦国時代のすごさを知る若者、という主人公イメージを持っていましたが、うまく筆が乗らずにボツ。「山賊」という案も浮かびましたが、やはりうまくいかない。 そこで辿り着いたのが「仙石権兵衛」だったのですが、その主人公選択には多くの歴史ファンの方々がどよめいたとずいぶん後に知りました。その理由は、司馬遼太郎さんが仙石権兵衛にずいぶん厳しい評価をしていたからなのですね。 『播磨灘物語』や『夏草の賦』で「かなりまずい指揮をし、自己顕示欲も強かった」という解釈が示されており、司馬遼太郎さんご自身としても「嫌いな戦国武将」に真っ先に仙石権兵衛を挙げるほどであったそうです。 そんなマイナスイメージの強い武将で連載を開始するなんて無謀にすぎるんじゃないかと、多くの読者の方々が驚いた。 しかし舞台裏を明かしてしまえば、当時の僕は司馬遼太郎さんのエピソードを知らず、なにか逆張りをしたかったわけではありません。 では、どのようにして「仙石権兵衛」に辿り着いたかというと、編集の土屋さんが差し入れてくれた武器や防具の辞典や資料集のなかに「決め手」があったのです。 それはなんと『信長の野望』のデータブック! どこまで『信長の野望』が好きなんだと笑われてしまいそうですが、この本には他の書籍にない良さがあります。なにしろ「データブック」ですから、各武将のステータスが数値で表現されている。 武将の強さが一目でわかるし、比較ができる。生没年などの最低限の情報がしっかり記載されており、武将の歩みをまとめた簡潔な紹介文も付いている。それでいて過剰な情報は載っていないから、後世の人物評を気にせずフラットな気持ちで武将たちを概観することができる。漫画の主人公選びにはもってこいの類い稀なる書物だったのです。 データブックをじっと眺めていくと、仙石権兵衛(仙石秀久)という人物にふと目が留まりました。信長や秀吉とも深い交流があったようだし、なにより長生きしている。戦国時代を股に掛けて活躍したのだろうから、主人公としても好都合である、と。
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