なぜ、スペイン代表はクロアチア代表に大勝できたのか。強豪撃破でも「優勝候補」と言い切れない理由【ユーロ2024】
ユーロ2024グループB第1節、スペイン代表対クロアチア代表が現地時間15日に行われ、3-0でスペイン代表が勝利している。今大会の優勝オッズは5番手と、スペイン代表への期待値はそこまで高くなかったが、なぜ直近の国際大会で好成績を収めているクロアチア代表に大勝することができたのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】スペイン代表vsクロアチア代表 ハイライト
●スペイン代表が強豪クロアチア代表に完勝 2021年に行われたユーロ2020こそベスト4に進出したスペイン代表だが、ワールドカップでは直近の2大会連続でベスト16止まりと国際大会で苦戦が続いている。 実際に今大会開幕前の時点での優勝オッズ(『bet365』を参照)を確認すると、5番手となる8倍であり、世間的にはそこまで期待値が高いとは言えなかった。 そんな中で迎えたクロアチア代表との開幕戦にて、ラ・ロハ(スペイン代表の愛称は)は3-0という衝撃の大勝を収めている。 ズラトコ・ダリッチ監督率いる相手チームは、ワールドカップで2大会続けてベスト4以上の成績を収めるなど、直近の国際大会でスペイン代表よりも好成績を収めている上に、開幕直前には優勝候補の一角であるポルトガル代表にも勝利。この試合の前まで6連勝中と、勢いをもってユーロ開幕を迎えていた。 なぜスペイン代表は好調なクロアチア代表相手に勝利することができたのだろうか。 ●今のスペイン代表の強み 世間的には「スペイン代表=ポゼッション」というイメージが強いだろう。2008年、2012年とユーロの連覇を成し遂げた頃は70%前後のポゼッション率を記録するのが当たり前で、流れるような美しいパスワークから多くのゴールを決めていた。 しかし、このポゼッションサッカーのアンサーとして世界的に守備戦術が整備されると、スペイン代表は国際舞台で苦戦するように。クラブレベルでもユルゲン・クロップ監督がプレミアリーグに持ち込んだ「ゲーゲンプレス」によって「強度」がチームのベースとなり、「攻撃」→「攻守への切り替え」→「守備」→「守から攻への切り替え」という「4局面」の整備が必要となった。 この時代によるトレンドの変化とともに、スペイン代表も戦い方のスタイルを変えている。 話をこの試合に戻すと、ポゼッション率でスペイン代表はクロアチア代表を下回る47%に留まった。こうした現象はかつてのラ・ロハではあり得なかったが、それでも試合に勝利している。このスタッツこそ、スペイン代表のスタイルが変わった証拠だ。 では、今のスペイン代表は何が”強み”なのか。ルイス・デ・ラ・フエンテ監督のチームが、試合を通してクロアチア代表を上回っていたのが「トランジション(切り替え)」の部分である。 29分のアルバロ・モラタのゴールシーンがその代表例だ。マルク・ククレジャが競り合いの末にこぼれたボールを拾うと、ロドリ、ファビアン・ルイスへと繋がり、最後はスルーパスに抜け出したエースが1対1を決めきった。 このゴールの前にも2つシュートシーンがあったのだが、いずれもボールを奪ってからの速攻であり、マイボールにしてから8秒以内にフィニッシュに持ち込んでいた。前線からの強度の高いハイプレスに加えて、予測能力に優れたロドリが中盤の底にいることで、セカンドボールを拾ってからのショートカウンターが大いに機能していた。 ●クロアチア代表に突かれたスペイン代表の弱点 ただ、スペイン代表は試合にこそ勝利したが、完全に支配するには至らず、シュート本数はクロアチア代表が16本と相手に上回られた(スペイン代表はシュート11本)。 その要因の一つが、ライン間に立たれた相手選手への対応の甘さだ。 確かにクロアチア代表の選手が裏抜けをみせることで最終ラインが押し下げられ、相手が意図的にライン間を作り出したシーンもあった。ただ、それ以外の場面でも中盤より前とDF陣の意思疎通ができていないのか、最終ラインを上げ切れておらず、自動的にライン間が多発している。 15分過ぎからは前線の強度が落ちたことでクロアチア代表の選手たちが余裕を持ってビルドアップすることができるようになり、マテオ・コバチッチやアンドレイ・クラマリッチらにライン間でボールを受けられて、多くのシュートチャンスを許してしまった。特に前半はこの形が悪目立ちしている。 流れが悪い時間帯でも、奪ってから縦に速くゴールを決め切れたのは流石なのだが、前からのプレスが緩くなってからの対応には課題を残していると言える。無失点に抑えられたのはウナイ・シモンのビッグセーブやクロアチア代表の決定力不足にも助けられたからであり、優勝候補に挙げられる強豪国は少しの隙も逃してくれないだろう。 ただ、補足したいのは、スペイン代表の守備陣もライン間への対応以外は反応が良かった。シンプルなロングボールはCBのロビン・ル・ノルマンが中心となって跳ね返し、両サイドからのクロスはダニエル・カルバハルとマルク・ククレジャの両SBが中央に絞って最後のところでは仕事をさせなかった。 総合すると、この試合はスペイン代表の「長所」と「短所」が出たゲームであり、まだ彼らの強さが本物とは言い切れない。 スペイン代表はグループリーグ第2節で前回大会王者イタリア代表と対戦する。この試合の内容と結果次第で、今大会におけるラ・ロハが優勝候補なのか、それともそれを下回る実力なのか、今大会における立ち位置がわかるかもしれない。 (文:安洋一郎)
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