気候変動で都会へ避難、再定住後も貧困問題に直面 イラク
(c)AFPBB News
【3月17日 AFP】ナセル・ジャッバーさんと子どもたちは過去10年、イラク南部の貧困層が住む地域に建てた灰色のコンクリブロック製の老朽化した住宅で暮らしてきた。 10人の子どもを持つ40代のジャッバーさんは、かつて牧畜や農業をなりわいにしていたが、干ばつのために田舎を離れ、失業と貧困がつきまとう都市での生活を余儀なくされた。 南部ジーカール(Dhi Qar)州の州都ナシリヤ(Nasiriyah)近郊に住むジャッバーさんはAFPに対し、「私たちは土地と水を失った」と振り返った。 ジャッバーさんが住む地域は、イラク南・中部が直面する気候変動によって家を追われた人々が陥っている極度の貧困問題を象徴している。 イラクでは降雨量は減少し、4年連続で干ばつに見舞われている。 住民たちが建てた家々の間に広がる空き地には、下水が流れ込み、近くの低い壁の陰で牛が休んでいた。 ジャッバーさんと同様、住民の多くは農業で生計を立てていたものの、村を捨てて移住を強いられた。 ジャッバーさんはかつて、ジーカール州の村ガテイア(Gateia)で、兄弟たちと5ヘクタールの農地で冬には大麦を栽培し、夏季には野菜を収穫していた。 ジャッバーさんは4年間、過酷さを増す気候の変化に対抗するため、できる限りの策を講じた。 ■収入は1日4ドル 井戸を掘ったものの、「少しずつ水が減っていった」と話す。最終的には50頭所有していたヤギを一頭ずつ売らざるを得なくなった。 都市に移り住んだ後、レンガを運んだりコンクリートを混ぜたりする建設現場での仕事を見つけたが、腰を痛めて仕事を辞めなければならなかった。「もう3年間も働いていない」と言う。 現在、17歳と18歳の子どもが、市場への荷物運びの仕事で家族を支えている。だが、1日約4ドル(約590円)未満という低賃金だ。 イラクは石油資源に恵まれているにもかかわらず、貧困問題が広がっている。 干ばつに加えて、イラク政府は、隣国の大国イランとトルコが建設した上流のダムが、イラクの農地を約千年にもわたって潤してきたチグリス(Tigris)川とユーフラテス(Euphrates)川の水位が急激に低下する原因になっていると批判している。 ■水不足が原因で「大規模避難」 国際移住機関(IOM)の報告では、昨年9月中旬までに「中・南部の12州で、干ばつによる状況変化に伴い、2万1798家族(13万788人)が避難を余儀なくされている」としている。IOMによると、気候変動による避難民の74%が都市部に再定住した。 ジーカール州のガッサン・ハファジ副知事(計画担当)は、水不足が原因で「大規模な国内避難」が起きていると指摘した。 干ばつに見舞われた南部の湿地帯から住民が退避した結果、過去5年間で「(ナシリヤ)市の郊外に3200戸の住宅が建設された」という。 ■社会不安の懸念も 副知事はまた、「国内避難により、すでに深刻な失業問題に見舞われている若者世代の雇用問題が、一段と深刻化する状況になっている」と指摘した。 イラクは数十年にわたって紛争が続き、腐敗問題が行政の質を低下させてきたため、田舎も都市部も似たような状況だ。 NGO「ノルウェー難民問題評議会(NRC)」の専門家トーマス・ウィルソン氏はAFPに、「都市は老朽化して投資が追いついていない既存のインフラにより、元々暮らしてきた住民に対しても基本的なサービスを提供する能力に限りがある」と述べた。 その上で「農村から都市への人の流れは、不十分なインフラに対する追加的な負担となっている」との見方を示した。 ウィルソン氏は強制移住を減らしたり、緩和したりするための方策として、「資源管理計画や効果的なガバナンス、投資」の必要性を強調した。 人口4300万人のイラクで、5人に1人近くのイラク人が水不足に見舞われている地域に住む。 国連(UN)報告書は昨年4月、気候要因による「社会不安」のリスクを指摘している。 報告書は「人口が密集した都市部では経済的機会が限られており、若者が疎外や排除、不公正といった感情を強めるリスクがある」とし、「こうした状況は異なる民族・宗教グループ間の緊張関係を悪化させたり、国家機関への不満を高めたりする可能性がある」と警告した。 ジャッバーさんの兄弟の一人であるカセム・ジャッバーさん(47)も3年前、ナシリヤにやってきた。カセムさんは「故郷を去ってから、働いていない」という。寄付によって費用を支払うことができた背中の手術の後、腰を支えるための器具を装着している。 カセムさんの10人の子どものうち、学校に通っているのは2人だけだ。子どもたち全員の学費を賄う余裕はない。 映像は2023年9、10月に撮影。(c)AFPBB News