思い出こそ人生最良の資産『葬送のフリーレン』が示す追憶の価値
結局のところ、ビジネスでいくら稼いだとしても、幸福な人生・充実した終生を送れなければ意味がないと考える人が大部分ではないだろうか。 近年、意識の高いビジネスマンの間では『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス、児島修〈約〉、ダイヤモンド社)という書籍が流行し、死ぬ瞬間までお金を溜め込んでも意味がなく、なるべく若いうちから良質な経験に投資して、最後はゼロになって死ぬべきだ、という論舌が話題をさらった。 言うまでもなく筆者も同感であり、できる限りそうなるよう生きているつもりだ。では、そもそもとして、生物としての人間(ホモ・サピエンス)の生きる理由とは何なのだろうか。 これらを進化生物学や行動遺伝学、文化人類学や量子力学等の観点から、上手く分析・説明してくれた良書がある。 以下のようなものだ。 ・『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス、紀伊國屋書店 ) ・『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ、河出文庫) ・『人が自分をだます理由』(ロビン・ハンソン、ケヴィン・シムラー、原書房) ・『波動の法則』(足立育朗、ナチュラルスピリット) ・『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか』(ウィリアム フォン・ヒッペル、ハーパーコリンズジャパン) 今回はこのうち、最後となる『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか』で丁寧に解きほぐしている、「物質より経験に投資する」という理論について説明しよう。
「物質より経験に投資する」
題材となるのは、圧倒的な評価の高さで満を持してアニメ化が決定した、週刊少年サンデーで連載中の『葬送のフリーレン』(山田鐘人〈原著〉、アベツカサ〈イラスト〉、小学館サービス)だ。 週刊連載ながら、その物語やキャラクターの奥深さ、世界観を的確に表現する画力の高さなどから、ジワジワとクチコミ人気の広がった同作品。 だが、その最大の特徴は、通常の少年漫画のような「魔王を倒す姿を描く」のでなく、「魔王を倒した後の、半世紀以上後の情景を描く」という点にあるのだ。 主人公であるフリーレンは、魔王を倒した勇者パーティーの1人であり、1000年以上を生きるエルフの大魔法使いである。 超長命のエルフの宿命であるのだが、彼女たちは全くと言っていいほど老けない。 その間に仲間や友人たちがどんどん、老いて亡くなっていくのが通常なのだ。 だからこそ、エルフからすると人間などに関わっても「どうせすぐ死ぬ」し、そこで作られる思い出などに価値を感じていなかった。 だが、そのフリーレンの価値観は覆される。 ともに魔王を倒すために10年間の冒険をした、勇者ヒンメルを含めた仲間との記憶が、 かけがえのない美しいものだったことが、数十年後に分かっていくのだ。 魔王を倒した半世紀後、ヒンメルは老いて亡くなる。ここでフリーレンは人生で初めて、人に対する喪失感を感じ、「こんなことなら、もっとヒンメルのことを知る努力をすれば良かった」と後悔するのだ。それをキッカケに、死後のヒンメルと対話できる場所を探して、フリーレンは旅に出る。