高齢者は8時間以上寝ると寿命が縮む? 世代ごとに違う「睡眠時間と死亡リスク」
「睡眠休養感」が重要
〈厚労省の「睡眠ガイド」では、健康増進の観点から「全ての国民が取り組むべき重要課題」として、「適正な睡眠時間の確保」とともに「睡眠休養感の向上」が挙げられている。時間という客観的な問題に比べて、捉えどころのない睡眠の質だが、端的に言えば、この「睡眠休養感」が得られる睡眠こそ、良質な睡眠ということになる。〉 睡眠休養感は、一言で言えば、朝、目覚めたときの「休まった感覚」のこと。かつては睡眠休養感の欠如が睡眠障害の目安の一つとされていましたが、日常生活ではそう難しく考える必要はありません。朝起きたときに直前の眠りで「体が休まった」となんとなく感じられれば、睡眠の質に特段の問題はないと考えてよいでしょう。逆に、眠りから覚めても体が疲れていたり、動き出しづらかったりすれば、「何か睡眠に問題がある」という警告が発せられていると思ってください。
「睡眠休養感によって死亡リスクに差が」
このように睡眠休養感は感覚的な指標ではありますが、休養感の欠如した睡眠には、死亡リスクを高める危険な側面もあります。先ほど紹介した私たちの調査では、「睡眠休養感の有無」によって死亡リスクに差が出ることも判明しているのです。 例えば、40~64歳では、睡眠時間が短いほど死亡率がアップしたとお話ししましたが、この死亡率の上がり方は睡眠休養感の有無によって異なります。具体的には、「睡眠時間が5.5~7時間で、睡眠休養感あり」と答えた人を基準とすると、睡眠時間が5.5時間以下の人は「睡眠休養感あり」で死亡率が1.34倍アップしたのに対し、「なし」では1.54倍に跳ね上がっていました。また、65歳以上の高齢者でも、「床上時間が7~8時間で、睡眠休養感あり」の人を基準とすると、床上時間が8時間以上の人は「睡眠休養感あり」で死亡率が1.14倍アップしたのに対し、「なし」の人では1.57倍とやはり跳ね上がったのです。
眠りを濃くする
では、睡眠休養感を向上させるためにはどうすればいいのか。この解決策も、現役世代の“常識”がシニア世代には通用しません。 まず、日中忙しく働いている現役世代の場合「睡眠休養感が得られていない」と感じる原因は睡眠不足がほとんどです。従って、まずは適正な睡眠時間を確保できるよう生活習慣を見直してみてください。 適正な睡眠量が何時間かは個人差がありますが、目安となるのは平日と休日の睡眠時間の差。目覚ましを使って起きる平日と、自然に目が覚めるまで寝ている休日の睡眠時間の差が1時間以上である場合は、日常的に睡眠が足りていない可能性が高い。そのため、この差が1時間以内、長くても2時間未満になるよう平日の睡眠時間を増やす必要があります。 当たり前ですが、見直すべきはあくまでも平日の睡眠。ときどき「差を1時間以内に」のほうに引きずられて休日の睡眠時間を削ってしまう方がおられますが、そんなことをすればさらなる睡眠不足に陥りますから、くれぐれも注意してください。 一方、睡眠量が減少する高齢者の場合では、先ほどの「ボウルの中の牛乳理論」が参考になります。すなわち“牛乳”(必要な睡眠時間)を増やすのは困難ですから、底面の露出を防ぐためには“ボウル”(床上時間)を小さくして水深を深くするしかありません。つまり、「早く眠りたいのに寝付けない」「たくさん眠りたいのに、目が覚めてしまう」といった悩みを抱えている高齢者は、思い切って床上にいる時間を短くしてみるのです。 もちろん、これまで8時間布団で横になっていた人が一気に床上時間を2時間減らすといった急激な変化はお勧めしません。「まずは30分」、「慣れたらもう30分」と段階を踏んで床上時間を減らしていき、布団に入っている時間が概ね6時間程度となるよう調整するのです。多くの場合、「夜中に目が覚める回数が減った」など睡眠が濃くなっていくのを体感できると思います。