貧農から“スターの靴職人”へ 「フェラガモ」創業者の生涯をたどる
4つ目のスペース“均衡と解剖学”では、フェラガモが使用していた作業用テーブルやはかり、愛読書、顧客との写真と彼らの足の木型を展示する。靴職人としてだけではなく、エンジニアや建築家、解剖学の専門家としての顔が見られる。フェラガモは骨格の構造や筋肉の機能、体重の配分といった人体解剖学を研究し、土踏まずのアーチの中心にある平衡軸を発見し、足が疲れにくく履き心地のいい靴を開発した。その靴構造の研究には、大聖堂や凱旋門のアーチの建設方法も参考にしたという。奥に進むと、建築的な研究を生かし、重量と寸法を調和させた8足のシューズを展示する。
5つ目のスペースでは、特許を取得した靴の設計図が壁を埋め尽くす。絶え間ない研究と工業デザイナーに似たアプローチの結果、フェラガモは画期的な靴型を開発し、368もの特許を取得している。彼の創意工夫と才能が、現在も靴底とヒールに応用されているだけでなく、そのデザインは歴代クリエイティブ・ディレクターにも影響を与えている。56年に誕生した鳥かごを意味する“ケージ”ヒールは、現クリエイティブ・ディレクターのマクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)が2024年春夏コレクションで湾曲したデザインに再解釈した。
奥の部屋では、ブランドの靴工房で日々技術を磨く職人のドキュメンタリーフィルムを映写する。伝統と妙技を讃え、未来へつなげようとしたフェラガモは、1956年に金細工師とともに18金で装飾した豪華な作品を発表。伝統工芸を応用し、シューズデザインの可能性を広げたフェラガモの革命的なスタイルの一つに、鮮やかな色使いがある。黒か白が主流だったモノクロの靴の世界に、明るい原色を大胆に取り入れて伝統を打ち破った。“色の創造性”のスペースは、芸術家からのインスピレーションやイタリアの風景、ハリウッドでの思い出を色とりどりに表現。ハウスカラーであるレッドから、月明かりに照らされたシルバーまで、豊かなカラーパレットで彩った。