「ゴジラ-1.0」少数精鋭で作り上げた驚異のVFX まるで“映画版・下町ロケット”
映画界最大の祭典「第95回アカデミー賞」の授賞式が10日(日本時間11日)に迫ってきた。山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」が邦画として史上初めて視覚効果賞にノミネートされ、注目を集める中、デイリースポーツでは短期集中連載「ゴジラ+(プラス)」をスタート。前編では、山崎監督とともにノミネートされた映像制作会社・白組の3人を直撃し、映画誕生の舞台裏を聞いた。 【写真】スクリーンに映し出されたゴジラと並ぶ白組の3人 ◇ ◇ 住宅街の一角にある「白組」の調布スタジオからゴジラは世界へと飛び立った。VFX(視覚効果)の制作に関わったクリエイターはわずか35人。ライバルの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」は400人超とされる。 製作費もハリウッドの何十分の1しかない中で、少人数を逆手に取った効率の最大化が図られた。VFXスーパーバイザー兼任の山崎監督を含んだクリエイターたちはワンフロアで作業し、何かあれば監督がキャスター付きのチェアで即座に移動して指示を出す。 分業制が進み、1~2週間ごとに監督がVFXの映像チェックをするハリウッドと比べ、トライ&エラーの回数は段違い。3DCGディレクターの高橋正紀氏は「『こうした方がいいんじゃない?』とアイデアが出たときにすぐ採用できるのが強み。離れているとまずは現場のリーダーに言って、そこから監督に、となるけど、そこが違う」と証言する。 かつてはフロアが分かれていたが、2021年から少しずつ改修され、現在の配置へと変化。山崎組の集大成ともいえるタイミングで最高の環境が整い、無駄な方向に作業が進む可能性を徹底的に排除した。 ノミネートの4人は、高橋氏が「デコボコ集団」と笑うように世代も性別もバラバラ。VFXディレクターの渋谷紀世子氏は「若手がいて、女性がいて、ベテランがいて、監督がいる。これが(白組の)ぎゅっとした縮図です」と説明し、多様な人材から柔軟な意見が上がるのが白組の強みでもある。 象徴的な存在が「監督にモノ言うZ世代」として注目を集める野島達司氏。風通しのよさを物語り「雰囲気がそういう(何でも言える)感じなので」と照れ笑いするが、迫力の海上戦を成立させる大きな鍵となった。 撮影した映像とCGデータを合成するコンポジターだが、趣味で自作していた水のシミュレーションがきっかけとなり、エフェクト担当にも加入。当初からゴジラとの最終決戦が海上になることは決まっていたものの、渋谷氏は「果たしてそれを表現できるのか。海をフルCGで作るのはかなりカロリーの高い取り組みだったんですが、野島がシミュレーションを持ってきたら『これ、できるんじゃない?』となりました」と回想する。 あくまで趣味だっただけに野島氏も「仕事でやると思っていなかったので、高橋さんに『できるかわからないです』と相談したのを覚えてます」と振り返る大抜てきだったが、結果的に海のシーンは当初より増加。アカデミー賞にノミネートされた人々が集まるランチ会では、スティーブン・スピルバーグ監督直々に水の表現を絶賛された。 エフェクト担当は野島氏のような兼務を含め5人。2月に米ルーカス・フィルムで上映会を行った際には、エンドロールの人数の少なさに拍手が起きたという。最終的なデータ量は白組で初めて「ペタ(1バイトの1000兆倍)」と膨大な量に達したが、少数精鋭で成し遂げた。 意思決定を効率化し、最短距離で最善解を導く。自由に意見できる風土を作り、抜てきもいとわない。戦後日本の主人公たちが英知を結集してゴジラを倒したように、創意工夫を重ねた山崎組が資本でかなわないハリウッド大作に立ち向かう図式は、映画版・下町ロケットと言えそうだ。