ブルース・スプリングスティーン「死の問題が人生の一部に」新作ドキュメンタリーで語る死生観
『ウエスタン・スターズ』をジムニーと共同監督したブルースだが、今回は全てジムニーに任せたという。「これは本当にトムの映画だよ。だって、僕がトムに言ったのは、『カメラを持って(コンサート会場の)フロアに降りてきて』ってことだけなんだ。この映画の物語は本当にトムによるものなんだ。彼は素晴らしい仕事をしてくれたよ」と、作品の出来にとても満足した様子だった。
本作の見どころの一つが、バンドメンバーでもあるブルースの妻、パティ・スキャルファが、血液のガンで闘病していたことを明かしたり、75歳のブルースがアーティストとして死とどう向きあっていくかという赤裸々な視点が描かれる点だ。ブルースは、最初のバンド、ザ・キャスティルズのメンバーだったジョージ・シースの死が大きな影響を与えたことを語った。 「僕は彼(シース)が亡くなる数日前に一緒にいたんだ。(その後)僕は何も書かずに2年間を過ごした。それから僕は、彼によってなにかを満たされ、(アルバム)『レター・トウ・ユー』のすべての歌を約2週間で書きあげ、4日間で録音した。僕らくらいの年齢になると、朝起きたらそういったことを考えるんだよ。パティと僕は彼女の病気と闘わなければならなかった。映画の中で僕が言うように、死の問題が人生の一部になるんだ。この年齢になると、さらに多くの昨日(過去)との別れがある。30年前や40年前よりもね」 バンドの解散や、メンバーの入れ替わりはよくある話だが、Eストリート・バンドが半世紀に渡ってほとんどメンバーチェンジなしに続いてきたことは、ほとんど奇跡と言っていいだろう。そしてその理由は、本作からも伝わってくるが、これほど成功し、有名なロックスターでありながら、人として常識を失わないブルースの人柄が大きいのではなかろうか。本作は、最新ツアーの映像以外に、バンドが始まった頃のエピソードや過去の映像を織り交ぜる構成になっていて、ブルースの音楽を知らない人にもわかりやすい。クライマックスのコンサート映像では、もちろん「ボビー・ジーン」「ダンシング・イン・ザ・ダーク」「明日なき暴走」といったお馴染みのヒット曲が楽しめるが、全曲を見せるのではなく、それぞれの曲のエッセンスを繋げたモンタージュ構成となっていて、そのシークエンスを世界最高峰のミキサーとして知られるボブ・クリアマウンテンがミックスを担当していることもあり、ぶつ切り感は全くなく、実に見事な映画的編集となっている。往年のファンにとっては全編たまらない内容であると共に、一ロックファンとして、もう二度と現れないかもしれないロックのマエストロの姿を、是非この機会に若い世代にも見てもらいたい。(細谷佳史 / Yoshifumi Hosoya)
映画『ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド:Road Diary』はディズニープラス「スター」で独占配信中