『水ダウ』放送作家が語るバラエティ番組における“いじり”の変化、順応上手な芸人はアノ人
芸人が過剰ないじりをしなくなった本当の理由
次にバラエティ番組におけるいじりが減少傾向の理由はどのように捉えているのか。 「ルッキズムや差別的な表現に対する意識が高まっていることは良い傾向です。とはいえ、必ずしも『差別は良くない』『容姿を馬鹿にした笑いは下品』と考える芸人が増えたため、過剰ないじりをしなくなったわけではないと思います。芸人は人を笑わせることが仕事であり、昨今の風潮的にそういういじりがウケなくなってきたから言わなくなったのかなと思います」 長く番組制作に携わっている大井氏ではあるが、ここ最近明らかに減ったいじりについて聞くと「女性芸人に対するものが多いです」と回答。 「容姿いじりもそうですが、キスを強要することはほぼなくなりました。ちょっと前までは『イケメンとのキスを掛けて女芸人同士が勝負する』とか、バラエティ番組の『罰ゲームとして女芸人からキスをくらう』というケースもたびたびありました。ただ、世の中の風潮から一気になくなりました。 また、あえて昔使われていた表現でいうと“オカマ”へのいじりも無くなりました。もちろん女性芸人やセクシャルマイノリティのタレントに配慮した部分もありますが、世の中の風潮を鑑みて、ウケなくなったからこそ減ったところが大きいと思います」 続けて、「ダウンタウン・浜田雅功さんが『絶対に笑ってはいけない』(日本テレビ系)内でエディー・マーフィーに扮するために肌を黒く塗り、これが大炎上したことがあります。外国人に扮して高い鼻をつけるだけでも炎上リスクがあるため、コント番組などでは外国人キャラは登場しなくなりました」といじりではないところの変化も語った。
今後主流になりそうな笑わせ方とは
今後のいじりという笑わせ方については「やはり視聴者にいじる側といじられる側に信頼関係があることを知ってもらうことは大前提になると思います」と話す。 「いじられる側はかわいそうに思わせないだけの返しの強さやワードセンスが求められます。一方、いじる側は自身のキャラを周知したりなど、とにかく知ってもらうしかありません。以前は知名度のない女性タレントが爪痕を残すため、芸人に雑ないじりを仕掛けるケースが散見されました。ただ、『誰が言ってんだよ』と思われ、そもそもあまりウケてなかったので、そういった動きを見せる人は減っています。いじるための“資格”を得るための努力と時間は以前よりも丁寧にしていく必要があると思います」 さらには、「これまでは上の世代が下の世代をいじることが主でしたが、これからは下の世代が上の世代をいじるようになるのが主流になるかもしれません」と分析。確かにそれこそ大物司会者が“ジジイいじり”されるシーンはちょくちょく目にする。とはいえ、青二才に素直にいじられることができない上の世代も少なくなさそうだ。その中でも、上手く順応している芸能人として大井氏は「圧倒的に東野幸治さんです」とキッパリ。 「東野さんはインプットの量がすさまじい。映画や漫画、アニメなどは幅広くチェックしており、若手芸人とも交流し、若い世代のカルチャーに積極的に触れ、『若い人は何を面白がっているのか』という嗅覚を常に磨いています。また、諦めない姿勢もすごい。若い世代で流行っているコンテンツの話になると、『俺はおじさんだから全然わからない』と諦める人は珍しくない。しかし、東野さんはわからないことをわからないままで終わらせず、自身のYouTubeチャンネルの企画に転換させる力も持っており、本当にお見事という感じです」 最後にいじりにかわる笑わせ方として台頭しつつあるものとして、大井氏は「エピソードトーク、中でも失敗談、自虐ネタで笑いを取る人は徐々に見られています。例えば、『センターになれなかった……』『人気がなさ過ぎた……』などで笑いを取る女性アイドルも見かけます。『自分で自分をいじる』みたいに、失敗談に限らず自身のパーソナルな部分を見せる笑わせ方が主流になっていくかもしれません」と予想した。 今後いじりがどうなっていくのかを注目しながらバラエティ番組を楽しみたい。
望月 悠木