翻訳者協会、AI活用したマンガ大量翻訳に“深い懸念”表明 小学館ら出資のベンチャーに「価値を大きく損なう恐れ」危機感
翻訳者や通訳者により構成される特定非営利活動法人の日本翻訳者協会(JAT)は4日、昨今の官民が推進する「AIを用いた漫画の大量翻訳と海外輸出の取り組み」に対する深刻な懸念を表明した。 【画像】【マンガ】翻訳されているマンガは2%程度…29億円を調達したベンチャーが示す「大量翻訳」のビジョン 近年の急速なAI技術と関連産業の発達により、これまで多くの労力とコストが掛かっていた、漫画作品の翻訳作業の一部をAIに担う取り組みが複数見受けられている。こうしたなかで、JATは現在の翻訳技術では「作品のニュアンスや文化的背景、登場人物の特徴を十分に反映できる品質には達しておらず、それを無視して大量の作品を短期間で機械的に翻訳することは、作品の価値を大きく損なう可能性がある」と指摘。 また、AIへの過度な依存は、漫画翻訳を長年支えてきた人々の雇用を奪い、コスト削減の名目で人材を安価に使い捨てることにもつながると懸念し、このような状況で専門家の技能と経験が軽視されることを深く憂慮していると表明。さらに、拙速な翻訳によって質の低い翻訳版が流通した場合、海賊版の蔓延を助長し、正規版への信頼を損ない、海賊版を増加させる可能性があるとの見解も示した。 なお、本表明において、漫画の大量翻訳の取り組みを行う具体的な社名は上げていないものの、「大量の作品を短期間で(公式発表によると5年で5万点、1点あたり最短2日で)機械的に翻訳することは、作品の価値を大きく損なう恐れがあります」との記述から、同様の事業ビジョンを5月に発表していた「株式会社オレンジ」の件を受けての発表であるとみられる。 同社は5月7日発表のリリースにて小学館やその他ベンチャーキャピタルから総額29.2億円の資金調達を実施したと発表。AI活用により漫画の英訳スピードを約5倍となる月間500冊の翻訳、将来的には五年で5万冊の翻訳を行うことを目指していた。 技術の発展によりクリエイティブ職が“AIに取って代わられる”可能性も長年危惧されているなか、JATは専門家による丁寧な翻訳が不可欠であると訴えており「 私たちの知識と経験によると、AIは物語(ストーリー)が生命線となる小説・脚本・ゲーム・漫画、いわゆるハイコンテクストな文章の翻訳には極めて不向き」として、作品の読み手を含めた慎重かつ建設的な議論がなされることを強く求めている。