Daoko × Tomgggと考える“未来のまちの音楽” 「テクノロジーの進化で聴こえなくなる音もある」
DaokoとTomgggによる「ナナイロカラフル」のミュージックビデオが1月18日、公開となった。本楽曲は東京・日本科学未来館の新常設展示「ナナイロクエスト」のテーマソング。展示の副題「ロボットと生きる未来のものがたり」を踏まえたリリックが、可愛らしいメロディと展開の多いビートで表現されている。 【写真】オフショット含む「ナナイロカラフル」MV撮影の様子 日本科学未来館の常設展示は昨年11月に7年ぶりとなるリニューアルを行った。そのひとつである「ナナイロクエスト」のシナリオはSF作家でありエンジニアの安野貴博氏が担当。未来の社会問題やコンビニの売れ筋商品まで緻密に設定された世界観によって、老若男女に発見を与えているという。 展示全体を貫くコアとして機能するのがテーマソングだ。このユニークなコラボレーションには、日本科学未来館側の「楽しくポップにデザインしたい」という狙いがあった。今回はその具体的な制作や経緯に迫っていきたい。 話を聞いたのはDaokoとTomggg、そして展示ディレクター・河野美月氏。トピックは展示や「ナナイロカラフル」だけに留まらず、生成AI以降の音楽シーンやそれぞれの考え方についてなど多岐に渡った。 〈テーマは「人間と機械の間」と「うたのおねえさん」〉 ――まずはDaokoさんとTomgggさんの起用理由について伺えますか? 河野美月ディレクター(以下、河野):展示の舞台が未来のまち・ナナイロシティなので、音楽で街や空間をプロデュースできる方に音楽をお願いしたかったんです。また「日本科学未来館」という名称も「科学」に「未来」、「日本」も被さってきて堅い印象を持たれがちでした。 だから展示全体を楽しくポップにデザインしたいと思い、企画チームで相談してTomgggさんにお声がけしました。さらにテーマソング制作もオファーしたところ、シンガーとしてDaokoさんが候補として挙がったんです。 Tomggg:言葉遊びを入れつつ、メッセージも表現できる方がいいなとイメージしたら、個人的に好きな彼女のアルバム『anima』の世界観と「ロボットに生命が宿るのか?」という命題が結びついたんです。 Daoko:Tomgggさんは似た場所にはいたと思いますが、近からず遠からずな関係性でしたね。ご一緒するのは初です。 ――Daokoさんはオファーを受けた時、どう思われました? Daoko:光栄でした。未来館は幼少期の学校行事と、Bjorkの展示プロジェクト『Bjork Digital ―音楽のVR・18日間の実験』(2016年)で訪れたことがあって、新しい試みをしているなと感じてはいました。 以前ラジオで池上高志さんと対談する機会がありまして、彼の著書『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』を読んだり、ロボットについて考えていた時期もあるんですよ。私の好きな手塚治虫『火の鳥:未来編』にも通じるところがありますし、いいタイミングでしたね。 ――制作は具体的にどのように進めていったのでしょう? 河野:BGM制作のミーティングのなかで「テーマソングが展示全体を繋げるコアな部分になる」という意見が出たので、テーマソングから作り始めました。 Tomggg:それから、まずビートとメロディを作らせてもらいました。それからDaokoさんにラップ部分を考えてもらった感じです。 Daoko:ミーティングの時に、シナリオを担当した安野貴博さんによる「世界観設定資料集」をいただいていたので、随分と展示のイメージに入り込みやすかった記憶があります。あれは分厚くて愛情を感じる資料でした。 ――ビートや歌でイメージされたことは? Tomggg:子どもにもわかりやすいメロディを意識しつつ、手数の多いものにしたいとも考えていたので、2分半のなかで場面が転換する内容になっています。 Daoko:音楽的要素が色々と組み込まれてはいるのですが、「ポップで可愛い」という軸を崩さない姿勢が「わかり手」だなと感じました。メロディはフロウや声色を癖付けずに歌っているのですが、企画のテーマを組みつつ「人間と機械の間」だったり「うたのおねえさん」みたいなイメージから着想しました。 Tomggg:レコーディングの時に「少し可愛くなりすぎてしまうかな?」という印象もあったので、バランスを考えながら録りましたね。 〈「未来の音に注意深くありたい」〉 ――最後のサビの前に<たのしいことだけじゃないぼくたちの人生>のところはベースペダル(同じベース音を持続させる技法)になっていて、ジャズ風味になっていました。ここが何だか『セサミストリート』や、その影響を受けた『おかあさんといっしょ』といった教育番組を彷彿とさせます。 Tomggg:目まぐるしく展開するけど、古典的で変わらないテーマのメタファーとしてブリッジ部分に入れました。歌のハモリもあえて異質な感じにもして。 ――リリックには<ぶきみの谷こえ>というロボットに対する人間の心理現象を表す言葉も出てきました。作詞については? Daoko:「不気味の谷」という言葉は先ほどの池上高志さんの著書に出てくるんですよ。言葉そのものや単語の響きとしてもお洒落だなと。 編注:「不気味の谷現象」とは、外見的写実に主眼を置いて描写された人間の像を実際の人間が目にするとき、写実の精度が高まっていく先のかなり高度なある一点において、好感とは逆の違和感・恐怖感・嫌悪感・薄気味悪さといった負の要素が観察者の感情に強く唐突に現れるというもの。 Tomggg:映像が浮かんできていいですよね。「谷」という言葉が冒険(=クエスト)を連想させてくれる。 Daoko:ただ明るすぎる歌詞は苦手なので、影をしっかり描くことで光を描くような流れがしっくりくるなと。だからテクノロジー万歳だけではない、葛藤の部分も入れています。 ――また、Daokoさんは「子どもと大人が一緒に楽しめる体験を届けていく」というコンセプトに掲げた「ヲコダヲコ」の活動もされています。それと今回の展示はリンクする部分もあるのでは? Daoko:そうですね。「勝手にうたのおねえさん」という裏コンセプトもあるプロジェクトです。もともと子どもが好きで、音楽の道に進まなかったら保育従事者になりたいと考えていたくらいでした。子どもが未来を創っていきますし、大人も彼らから学べることがあるんですよね。今回は思わず、ヲコダヲコ的なアプローチが出てしまいました(笑)。 ――Tomgggさんは展示について「未来では聞こえなくなる音があったり、新しく生まれる音があるかもしれません」とコメントされていました。それはどんなものだと思います? Tomggg:カナダの作曲家のマリー・シェーファーによる「サウンドスケープ」から個人的に影響を受けているんです。たとえば、自動車が発明される以前は馬車の走る音がしていたし、掃除機以前はほうきで掃いていた。道具やテクノロジーの進化によって、環境が変わっていくと音も変わってくるだろうなと。 僕は駅の側に住んでいるのですが、スピーカーも技術が進化しているので、ホームにいる人だけに聴こえるものも作れると思います。そうしたら、駅の横も静かになるかもしれない。逆に今まで聴こえなかった海や川の音が聴こえてくるのかも。そういう未来の音に注意深くありたいです。