澄んだ瞳(7月25日)
ちょうど60年前の正月、熊本県玉名市の寺に一人の「弁護士」が現れる。住職は教誨師[きょうかいし]を務めていた。活動を支援したいと名乗りでて、歓迎を受ける▼家族の中で、客人の正体に一人だけ気付いた。当時11歳の娘だった。交番に張られた指名手配の写真を見て、逃亡中の連続殺人犯・西口彰にそっくりだと言い出す。刑事ですら、「人違いでは」と疑ったという(現代殺人事件史)。偏見や先入観に染まっていない無垢[むく]な眼力が、人の真実を見抜いた。作家の佐木隆三さんが後に、直木賞を受けた「復讐[ふくしゅう]するは我[われ]にあり」で描く▼どうせ、小学生だからと侮ったのか。お隣宮城県の大河原町議会。見学に訪れた児童は、議場でゲームのツムツムをしていたり、寝ていたりする町議を見つけた。「議員で働く人としていいのか」と感想文で訴えた。渦中の人物は議員辞職を表明し、24日付で許可された。鋭い感性は、相手の心の底まで白日の下にさらしたようだ▼うだるような暑さで、心と体はくたくたに。ハンドルを握れば、イライラがついつい運転に表れてしまう時はないか。ルールやマナーの違反は禁物だ。学校は夏休み。澄んだ瞳が、あなたをじっと見つめている。<2024・7・25>