「今週会話したのはスーパーで『袋、大丈夫です』と言ったのが最後やな」そんなとき実行する私の秘策【坂口涼太郎エッセイ】
日常にこそきらめきを見出す。俳優・坂口涼太郎さんが、日々のあれこれを綴るエッセイ連載です。今回のエッセイは「悲ロ活のすすめ〈前編〉」です。一風変わったお涼さんの習慣、あなたも始めてみませんか? 【写真】日常こそが舞台。自宅で「お涼」ルーティーンを撮り下ろし 私には気分転換したいときにする秘密の活動があります。 あー、なんか最近つまんないなあ、おもろいことないなあ、なんだか毎日が金太郎飴ぐらいおんなじで無感動、最近いつ笑ったっけ泣いたっけ、誰かと話したっけ、ていうかこの数日声すら出してなくない? たぶん、3日前に観たドラマの最終回がそれまでいくつもの謎を盛大に盛り上げるだけ盛り上げておいて結局夢オチだったときにテレビに向かって「なんやねんそれ」とひとりで呟いたのが最後やな。あ、人間に向かって言葉を発したのは1週間前にスーパーで「袋大丈夫です」と言ったのが最後やな。 そんな感じでなんだかここいらで自分の人生という脚本においてドラマティックな展開がほしい、このまま何も起きないと視聴率はだだ下がり、スタッフの士気もだだ下がり、演じていても退屈、何も起こらない日常を切り取った系の映画だとしても主人公はずっと寝ていて、起きたと思ったら部屋でじっとしてテレビを見ているだけ。同じ表情で同じ移動を繰り返し、あまりにも面白みを見つけられなすぎて映画.comのレビューでいかに面白くなかったかということをわざわざ2万字ぐらいかけてこんこんと酷評されそう。それか、「☆☆☆☆☆0.0 は?」の1文字で片付けられそう。ていうかその前にどの映画館も上映権なんて買ってくれないこと間違いなし。 そんな、日常にサムシングドラマティックが欲しいなあ、必要だなあと思ったとき、私は決まって悲劇のヒロイン"悲ロイン"となり「悲ロイン活動」略して「悲ロ活」を実行する。
「悲ロ活」は簡単。そのやり方をお教えします
やり方は簡単。深夜にタクシー、終電、終バスに乗ったり、繁華街をあてどもなく歩いたりすれば準備万端も満タンで、さらにそこに「悲ロ活」の為に選りすぐった歌謡曲、バラード、インスト曲が加われば、絶品の悲ロインがここに爆誕。 今まであった納得いかなかったこと、悔しかったこと、理不尽に感じたこと、痛かったことなどを思い出してもよし。自分のだめだめさ、ちょっとした失敗、けっこうな失敗、ひとりぽっちさを思い出すのもよし。そのときの気分に合わせて、自分に起きた&起きている悲劇的なことを盛り上げて、窓ガラスに額を当てながら、歓楽街のキャッチのお兄さんたちが私に声をかけようとしてやめる姿を感じながら、泣きます。 するとどうでしょう。さっきまでのありふれて見慣れていた無感情ノーコメントだった世界がなんだかいつもとは違う光り方をして、あなたのことを照らしだす。きっといまこの姿をエマニュエル・ルベツキが撮影していて、のちに数々の映画祭で私は最優秀悲劇のヒロイン賞を受賞すること間違いなし。スクリーンの中にいる私を私が観ているような気分になって、気が済むまで悲ロインになりきり、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督のカットの声がかかり「今のよかったよー」とイニャリトゥをはじめイニャリトゥを取り囲むイニャリトゥ的な人々に労われながら、悲ロインの衣装を脱ぎ、メイクを落とし、現実世界へと帰還して何ごともなかったかのようにお茶碗を洗い、靴下に空いた穴を繕う。 そのようにして無感情になりがちな生活に起伏をもたせ、自分が自分の人生の主人公なのだということと、色々あったりなかったりしたけど無事に生きていることの有り難さを思い出させてくれる悲ロ活は私にとって必要必需の気分転換というか、もはや癖なのだけれど、この活動の発端は一体何だったのだろうかと記憶を辿れば、思いもよらない幼少期の頃の思い出とコネクトしていることがわかり、私は自分でも知らなかった「悲ロ活をするようになった本当の理由」に、どーん!と気づいてしまったのであった。 〈後半〉につづく…! 文・スタイリング/坂口涼太郎 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/齊藤琴絵 協力/ヒオカ 構成/坂口彩
坂口 涼太郎
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