神宮寺勇太 (アーティスト)──瀬戸内でデニムを学ぶ。その2 特集:車とともに旅に出よう。
旅の季節がやってきた。西へ東へ、国境さえも越えて、車はどこまでも私たちを運んでくれる。かつて、若きジェントルマンは未知なる世界へ、見知らぬものと出会い、自身を高めるために旅に出た。『GQ JAPAN』はこの秋、瀬戸内、能登、函館、そしてソウルへと学びの旅を提案する。車を相棒に、グランドツーリングへと出かけよう。 【写真を見る】神宮寺勇太、瀬戸内にて
世界が注目するデニムの生まれる場所へ
「......すごく贅沢な時間でした」。彼が旅を終えて発した第一声だ。アーティストとして新しいステージに立った神宮寺勇太が向かった先は、瀬戸内。日本初の国立公園でもあるこの場所は、風光明媚な景観を擁し、アートやグルメ、リトリートといった多彩なコンテンツで国内外の多くの人々を惹きつけている。デニムもその一つだ。 瀬戸内海の本州側、瀬戸大橋の袂に位置する岡山県倉敷市から広島県福山市に広がる一帯は、衣類産業の集積地として発展を遂げ、日本初のジーンズを作った場所としてもその名を馳せる。最高峰のクオリティをもって海外からも絶大な支持を集める「ジャパニーズデニム」も、ここで生まれた。自他ともに認めるデニム好きであり、「ヴィンテージデニムに目がない」と話す神宮寺にとっては、縁を感じる場所。 世界に誇るファッションインダ ストリーの地で車を走らせ、この地でユニークな挑戦をする人々を訪ねる。瀬戸内の旅で学び、そして感じた神宮寺勇太の“贅沢な時間”とは。
走行距離200kmほどにわたるデニムの旅を終えた神宮寺勇太。久しぶりの地方ロケ取材だったと いう神宮寺が、この旅から得たもの、そして彼が抱く未来予想図は? ─ “デニムを学ぶ旅”を終えていかがでしたか? 神宮寺 手仕事はすごい! 知識としてなんとなく知っているつもりになっていたけれど、実際に現場を訪ね、体験し、デニム作りは高度な技術の集約だと実感しました。ミシン作業ひとつとっても、職人の方は一針の動きを正確に捉えたり、微妙な曲線を繰り返して再現したり......。普通なら見逃すようなところまで突き詰めている。鍛錬の賜物です。そんな作り手の情熱を知って、“メイド・イン・ジャパン”のデニムを着たいと思いました。そして最新の環境配慮型デニムを知ったことで、自分が好きなヴィンテージデニムを大切にする意義というか、気持ちも強まりました。 ─ 初めて車で旅をしたときの思い出はありますか? 神宮寺 父に頼んで“峠”に行ったことですね。 ─ 峠とは? 神宮寺 小学生の頃、ゲームセンターの峠を攻めるドライビングゲームにハマったんです。ある日父に、「峠へドライブに連れていってほしい」と頼みました。ゲームだとものすごいスピードで走れるのですが、実際は30分くらいかかって、ちょっとがっかり(笑)。初めてのグランドツーリング体験ですね。 ─ 最近、旅に行かれましたか? 神宮寺 プライベートで旅する機会はないですね。もちろん、行ってみたい場所はたくさんあります。岡山県と広島県も訪れたのは初めてで、そこで人と出会い、学び、そして夕日や海の景色を眺め、時間を有意義にのんびり使う......これが贅沢なんだなぁと思いました。 ─ “学ぶ”というキーワードでダンスとボーカルレッスンの話がありました。ほかに学びたいことはありますか? 神宮寺 キャンプですね。この夏、生まれて初めてキャンプに行きました。ありきたりかもしれないけれど、仲間とバーベキューして、ファイヤープレイスを囲んで。それが思いのほか楽しかったですし、自然の魅力も知りました。でもテントは張れなかったし、シュラフで寝たらカラダはバキバキ(笑)。だからキャンプでの過ごし方を学びたい。ヴィンテージランタンなどの古いギアを揃え、あえて面倒を楽しみたいですね。 ─ ほかに楽しんでいる“面倒” はありますか? 神宮寺 バイクが好きなのも、面倒だからかもしれません。年式の異なるバイクを持っていますが、1990年代の比較的新しいものですらオイルは漏れるし、1950年代のものはもっと大変。いつ故障するかわからないから遠出は正直怖い。でも、キックペダルを何度も何度も蹴ってエンジンが掛かったときの感動といったら。逆に、現代のバイクに乗ればインジェクションは便利だなぁと、最新技術のありがたみを実感します。温故知新というか、古いものと新しいもの、両方を楽しむからこそ“面倒”も楽しめるのかもしれません。 ─ ファッションも同様に? 神宮寺 はい。ヴィンテージも好きだし、現代のストリートブランドも同じ感覚で着ます。“ごちゃ混ぜスタイル”です。ヴィンテージデニムは20歳のときに頑張って買ったものをはじめ、パンツとGジャンなど、十数着所有しています。いちばん古いのは1937年製。100年近い時を超えていると思うとロマンがありますよね。最近集めているバンドTシャツも1990年代のものが多い。今から30年以上も前に作られたものがヴィンテージとして新しい価値を持ち始めている。僕がまたコンサートツアーをするならば、何十年後かに古着屋の店先に飾られて、誰かにカッコいい、と思ってもらえるTシャツを作りたいですね。そう、僕が10代のときに憧れたヴィンテージデニムのように。