松下洸平は“医師”としての説得力を持つ 『光る君へ』周明と『放課後カルテ』牧野に共通点
NHK大河ドラマ『光る君へ』の第45回「はばたき」の予告に松下洸平が演じる宋の見習い医師・周明が登場。その映像が流れた瞬間、SNSでも大きな話題となった。 【写真】劇中では約20年前 まひろ(吉高由里子)の心を動かしていた周明(松下洸平) 公式サイトの第45回の相関図・キャストには「鎮西の人々」として、まひろ(吉高由里子)が越前で出会った医師と紹介があり、周明の再登場が確認できる。現在の九州地方である鎮西に周明は現在はいるようだ。 まひろが父・為時(岸谷五朗)の赴任先の越前で周明と出会ったのは第21回「旅立ち」だった。好奇心旺盛で、宋の言葉や文化に興味津々なまひろに周明は宋語を教えるようになり、それをきっかけに2人は親しくなっていった。 周明はオリジナルの人物で、過去に悲惨な経験をして苦労しながらも医療を学び、宋の仲間と越前にやってきてさまざまな葛藤を抱えている複雑な役どころ。日本人として生まれたが、貧しさゆえ周明は親に海に捨てられた。周明を拾ってくれたのが宋の人で、命は救われたものの牛や馬のように働かされ、どうにか生き延びて医師の見習いとなり、宋の商人たちと越前にやってきた。為時の、突然の激しい胃痛も治せる医師の技術もあり、物腰も柔らかく、魅力的ではあるが、時折見せる悲しげな表情がさらに彼の存在を謎めいたものとしていた。 医師の技術といえば、現在放送中のドラマ『放課後カルテ』(日本テレビ系)で学校医として小学校の保健室で常駐することになった小児科医・牧野峻役で主演。松下洸平は同時期に平安時代と今この時代、全く異なる時代背景に生きる医師を好演している。 ぶっきらぼうで、とっつきにくい印象の牧野だが、鋭い観察目の持ち主で子どもたちの異変に気づき、治療方法をきちんと見つけていく。無愛想でも態度が大きくても、牧野先生の声は心地よく響くので、耳を傾けてしっかり話を聞きたくなるというのも余韻に浸れるポイント。 医師に求められるのは、問題点を的確に分析し、その人の不安を解消するために必要なことは何かを理解すること。思い込みの強さで一方的に「この治療法しかない!」と誤診されたら、良くなるものも悪化する。松下洸平が「医師」という職業の役を演じると、鋭い感覚を研ぎすませ、目の前にいる相手を尊重し、誠実に向き合うことで最善の解決策を導き出す。そんな優しいやりとりが成立しているように思われる。 『光る君へ』の周明と『放課後カルテ』の牧野は全く違うタイプであり、さらに『光る君へ』で再登場する周明は越前でまひろに宋語を教えていた頃から21年以上経っている。 何しろ、まひろは越前で藤原宣孝(佐々木蔵之介)に「妻になれ」と言われていた頃で、賢子(南沙良)も生まれていなかった。 第44回「望月の夜」で、威子(佐月絵美)が中宮となった祝いの宴で道長(柄本佑)が〈この世をば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることも なしとおもへば〉と歌を詠んだのは、寛仁2(1018)年のこと。 長い年月を経て、周明はどう変わったのか。まひろと再会したとき、周明はどんな表情を見せてくれるのか。期待しかない。
池沢奈々見