高級ブランドの国際空港への出店急増、旅行者の購買意欲を反映
高級品を扱う小売企業は、ターゲットとする消費者との接点を持つ場として国際空港を積極的に活用するようになっている。この動きはさまざまな世代の旅行者の間で、高級品の購買欲が世界的にみられることを浮き彫りにしている。 空港への進出は、フランスの人類学者マルク・オージェが2020年に指摘した、旅行者は空港を絶えず更新される中間的な空間と見なすことが多いという事実を利用している。 「観光のまなざし」が支配する空港は日常から離れた独特かつ一過性の空間であり、これにより日常のストレスや規則、プレッシャーに影響されにくい消費心理が働く。 Parfums Christian Dior(パルファン・クリスチャン・ディオール)がニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港のターミナル1に香水店「ラ・コレクション・プリヴェ」をオープンするなど、高級ブランドはそうした旅行者の空港での心理を活用している。 同店は免税店を展開するInternational Shoppes(インターナショナル・ショップス)との提携のもと、ディオールの22種類の香水のほか、ミッツァスカーフやサングラスの厳選セレクション、その場での名入れサービスなどを買い物客に提供している。 「このブティックは単なる提携や店舗ではなく、希望と回復力、そして旅行小売の未来に向けたコラボレーションの持続力を象徴している」とLVMHビューティー・マネージング・ディレクターのアンドレ・マーズロフは開店を祝う式典で語った。 高級ブランドの空港出店の動きは米西海岸でより顕著だ。 サンフランシコ国際空港にはバーバリーやグッチ、エルメス、サンローランなど、ロサンゼルス国際空港にはオールセインツ、ポルシェデザイン、コーチといったブランドの店舗がある。
こうした動きは北米以外の地域でも
だがこうした動きは北米に限ったことではない。オランダ・アムステルダムのスキポール空港のラウンジ2にはブルガリやルイ・ヴィトンといったブランドが店舗を構えており、国際線を利用する旅行者向けの高級小売を強化しようと大規模な改装が行われている。 イタリア・ローマのフィウミチーノ空港も、空港デビューとなったゴールデン・グースやツインセットを含む14の高級ファッションブランドの店をオープンさせ、高級小売を強化した。 こうした変革的な試み、旅行小売市場が力強い成長を遂げようとしているのも後押しとなっている。同市場の規模は2023年の792億4000万ドル(約12兆円)から2024年には904億1000万ドル(約13兆7100億円)に拡大すると予測されている。年平均成長率は14.1%だ。 だが、空港出店の動きは事業拡大を狙っているだけではない。ベンチャーキャピタル会社Hannah Grey(ハンナ・グレイ)のチーフ・ブランド・オフィサーであるマイケル・ミラフローは、高級ブランドにとって国際空港は富裕客の注意を引く絶好の場だと考えている。 「現実的な観点から言うと、航空会社は国際線利用者に搭乗の数時間前に空港に到着するよう促している。そして空港ではラウンジを利用する以外にすることはさほどない。買い物はうってつけだ」とミラフロー。「また、海外旅行は散財するものと考える多くの旅行者にとって、心理的に空港での高級品の買い物は正当化しやすいかもしない」。 こうした感情と併せて、高級ブランドは空港に出店することで、高級ブランドの実店舗に入ることに抵抗を感じる若い買い物客とつながる貴重な機会を得ている。 「Z世代以降の消費者は、従来の実店舗ではなく、より手軽でいつでも利用できるオムニチャネルで買い物する」とネット広告事業などを展開する中国Hylink Group(ハイリンク・グループ)の最高戦略責任者(CSO)のユクン・ビは指摘する。「空港はこのような若い消費者にとって、ブランドの店舗に入って実際に商品を手に取る最初の機会となるかもしれない」。 ビはさらに、高級小売にとって空港は今後、ポップアップ店を設置するなど革新的なエンゲージメント戦略を通じてさらに成長する機会を得る場となると説明する。例として、シンガポールのチャンギ空港やシンガポール航空のマイレージプログラム「クリスフライヤー」の会員向けのラウンジを挙げる。そこではビジネスクラスやファーストクラスを利用する富裕客をターゲットに、ブランドが商品や季節のアイテムを展示する専用のポップアップスペースが提供されている。 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)以降、世界中の空港が小売サービスの調整を続けている中、高級小売は世界の旅行者を引きつけて、巨大な市場シェアの一部を獲得するチャンスを手にしている。
Kaleigh Moore