現役引退の宇野昌磨がフィギュアスケート界にもたらしたもの、ありのままの言葉に込められた周囲の人への思い
文=松原孝臣 ■ 2024年5月、現役引退 フィギュアスケーター宇野昌磨が現役生活から退くことを決め、5月14日に記者会見を開いた。 【写真】2024年3月23日、世界選手権、男子シングル、FSを終えた宇野昌磨 実績だけとってみても、その功績は計り知れない。オリンピックでは2018年平昌大会で銀メダル、2022年北京大会では団体戦で銀メダル、個人戦で銅メダルを獲得。世界選手権は2022、2023年と連覇。グランプリファイナルは2015年に初めて出場したのを皮切りに6度出場し優勝1回を含めすべて表彰台に。全日本選手権は13年連続出場、そのうち、実に10年連続で表彰台に上がり、2023年大会を含め計6度、優勝を飾っている。 これらの記録は、長年にわたりトップスケーターとして活躍してきたことを雄弁に物語る。 第一人者の引退に、数多くの取材者が訪れた会見は、宇野本人が発する晴れやかさから、終始和やかな、ときに笑い声も出る空気の中で進んだ。 その中で宇野は言った。 「今までメディアさんの皆さんにもほんとうに自分の言葉で、自分の好きなように喋って、そして先輩、後輩の方たちにも全然気遣いとか先輩らしいことができていないときもたくさんあったと思うんです。けれどもみんなほんとうにいい子で、そしていい先輩で、僕よりもしっかりしている後輩もたくさんいるので、これからのフィギュアスケート界もすごく楽しいと思います」 「自分の言葉で」――宇野はいつも、思うことを、考えたことを、打算なく発してきた。昨秋、話をうかがう中でこう語っている。 「僕は建前の話って好きじゃないし、思ったことを言うのっていいことばかりじゃなくてその分、敵を多くつくることになると思います」 NHK杯で、ジャンプの回転不足をとられたことに関し、試合直後、それに対する違和感を語ったという流れを受けての言葉だ。 それは宇野自身の不満からではなかった。いいジャンプが跳べたという手ごたえはあった。元スケーターをはじめ多くの人も「厳しすぎる」と疑問を感じる判定であった。でも、宇野が判定について言葉を発した直接の理由はコーチであるステファン・ランビエルが悲しむ姿にあった。