バーネットのポスティングは茶番だったのか
ヤクルトのトニー・バーネット(32)は、ポスティングシステムを利用してのメジャー移籍を目指していたが、その交渉期限となる7日を過ぎても入札球団があらわれず交渉が成立しなかった。ヤクルトは、譲渡金を50万ドル(約6000万円)に設定。その譲渡金を入札した球団は交渉可能になるが、今回、バーネット獲得のために入札した球団はなく、メジャードラフト経験者としては、球界初となる“逆輸出ポスティング”は実現しなかった。 バーネットは、2006年のメジャードラフトの10巡目でダイヤモンドバックスに指名されたが、マイナー生活を抜け出せず、2010年からヤクルトでプレー。翌年にストッパー起用されると開花、2012年に33セーブを記録してセーブ王を獲得し、6年目の今季も、59試合に投げて、41セーブ、防御率1.29の素晴らしい成績で、再びセーブ王に輝き、勝利の方程式の締めとして、チームの優勝に貢献した。 バーネットは、ヤクルトに育ててもらった恩を譲渡金という形でチームに還元できればとメジャードラフト経験選手として初めてポスティングシステムを使ったが、入札は不調に終わった。今後は、引き続きメジャー移籍を前提に交渉を続け、ヤクルトもバーネットの意向を尊重する方向だという。 だが、あるセ・リーグの球団幹部は、今回のポスティング失敗を受けて、こんな話をした。 「バーネットは、海外FA権を持たない日本人選手と違って、ポスティング時期を過ぎれば実質は、FA選手。つまりポスティングの期限を過ぎれば、50万ドルの譲渡金を払うことなく獲得することができる。どの球団が、わざわざポスティングシステムを使う?まったくの茶番劇ですよ」 ヤクルトは12月2日にバーネットを保留選手名簿に載せたが、これはあくまでもポスティングシステムを使ったための処置。ヤクルトとの契約は今季限りで切れているため、さっそく8日に名簿から外れ自由契約となった。今後はFA選手として、日米との球団との交渉が可能になった。 ポスティングが成立しなければ、メジャー挑戦のできない海外FA権を持たない日本人選手と違い、ポスティング期間が過ぎれば、FA選手として獲得可能なのだから、バーネットに興味を持つメジャー球団が、約6000万円の譲渡金が必要なポスティング期限(30日)が過ぎるのを待つのも当然だろう。 米国のメディアは「5球団ほどが興味を示している」と報じているが、今後は、FA選手として交渉が継続されることになり、やっと交渉が本格化すると見られている。 球界初の“逆輸出ポスティングシステム”の活用として注目を集めていたが、実態は、茶番劇と言わざるを得ない。ポスティング申請を決めた会見で、バーネットは、「スワローズへの感謝の気持ちがあった。FAでサヨナラするよりもポスティングで自分の道を決めたかった」と、熱い思いを伝えた。マイナー暮らしだったピッチャーを2億円近くのサラリーを稼ぐまでのストッパーに育ててもらった恩をバーネットが形に変えようと試みたその誠意は、確かにヤクルトファンを感動させた。そのバーネットの純な気持ちは、無碍にはできないが、実態としてはヤクルトと複数年契約を結んでいない限りは、元々ポスティングの成立はあり得なかっただろう。 今回の事例で、やはりポスティングシステムは、FA権を有さない日本人選手を対象に作られた制度で、今後も、外国人選手のポスティング移籍が成立するケースは、非常に限られてくることが浮き彫りになった。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)