その発言に?精彩を欠いた香川にロシアW杯の居場所はあるのか
「私の頭のなかには、3つほどのチームの形がある」 ニュージーランド戦を翌日に控えた公式会見で、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督はこう明言した。アルジェリア代表を率いた3年前のブラジル大会も、変幻自在なシステムと選手起用で、同国を初めて決勝トーナメント進出へと導いた。 同じ手法を日本へも導入する過程で、すでに3つのシステムが脳裏に描かれている。基本布陣の「4‐2‐3‐1」、ロシア大会出場を決めたオーストラリア代表戦の「4‐3‐3」と、もうひとつはおそらく前線を2トップにする形となるだろう。 そのなかでニュージーランドには、日本がボールを保持できるというスカウティングをもとに、トップ下を置く「4‐2‐3‐1」で臨んだ。左肩の脱臼もあって4試合ぶりに、それも得意とするトップ下で先発する香川への親心でもあり、機能するかどうかを試すテストでもあった。 プラス材料はあった。帰国する直前のアウグスブルクとのブンデスリーガで先発し、今シーズン最長となる81分間プレーした香川は芸術的なループ弾を決めた。 「それでも、我々の知っている香川本来のレベルではない。ボールをもっていないときのプレーをより速くして、どんどんチームに絡んでいくことを要求している。他の選手との競争もあるが、プレーをしながら確実によくなると思っている」 日の丸を背負うと不完全燃焼の結果を繰り返す、いままでの香川を目の当たりにした指揮官はあらためて檄を飛ばすとともに、こうつけ加えることも忘れなかった。 「失点した後に攻撃の形を作り、スペースを作ったことは評価したい。新たに入った選手たちが、プレーに素早さやスピードを与えた。私もいま、いろいろと探しているところだ」 香川の交代とともに、日本は「4‐3‐3」にシフト。代わりにピッチに立った小林は、井手口陽介(ガンバ大阪)とインサイドハーフを組んで攻撃を再活性化させた。相手の間でボールを受けては味方を走らせ、ポジションをスライドさせては再び受けて、ときには自ら動いてチャンスを演出し続けた。 敵地で難敵UAE(アラブ首長国連邦)に2‐0で勝利した3月のアジア最終予選で、香川はインサイドハーフを担っている。このときは不得手とするディフェンスで奮闘したものの、本来の攻撃力を発揮できたとは言い難かった。 状況はまったく異なる2戦だが、それでもインサイドハーフとしてのプレーを比較した場合、ハリルホジッチ監督の称賛をうけた小林に現時点では分があると言わざるを得ない。心に抱いた苛立ちが、冒頭の「何の意味があるのか」につながったのだろうか。 29歳で迎える来年のロシア大会を、集大成に位置づけているとニュージーランド戦後に明言した。 「個人としていろいろなことを経験した。それを踏まえて来年のW杯があるわけで、僕にとってはその次があるとか、変なことは考えたくないので」 味方を使うより使われることで眩い輝きを放つ香川は、トップ下でもインサイドハーフでも、依然としてドルトムントと日本代表とで対照的な顔をのぞかせる。周囲の問題なのか、あるいは香川の意識次第で改善されるのか。来年5月の代表メンバー発表まで、海外組が参戦できる国際Aマッチはあと5戦しかない。「10番」を背負って7年目を終えようとしている男が、正念場を迎えようとしている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)