ダートの砂産地を公表へ… 物理・地学で性状を考える【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」 JRA施設部は2025年の年明けごろをめどに、ダートの砂産地公表を始める。砂は1990年代に青森県産単体への切り替えが進み、02年の福島の切り替えで「全場青森県産100%」に。20年までこの状態が続き「JRAのダートは青森県産」が半ば常識となっていた。 建設資材としての砂需要と競合するなどして安定供給が難しくなり、20年から段階的に各場の砂の補充に他産地の砂が加えられ始めている。中山のみ青森県産100%の運用が続いているが、ほか9場は青森県産をベースに、近隣の産地の砂や、豪州からの輸入珪砂とのブレンドが進んでいる。 気になるのはブレンド後の砂の性状の変化だ。走路に使われる砂には、組成(出自)で大別して海砂、川砂、山砂、珪砂がある。 海砂は海底堆積物が由来で、貝殻などの生物遺骸が4割、石英が3割。完全に乾かした状態の絶乾比重は2・58くらい。川砂は川の上流の地質で組成が異なるが標準的な比重は2・54。山砂は産地で組成が異なるが粒の細かい成分を除くと大部分が珪砂や石英で、海砂に近い。珪砂はほとんどが二酸化ケイ素。純度の高い石英だ。比重は2・56。 ところでダートコースは年に一度”洗われる”。砂粒がくだけて粘土質(シルト)に変わっていくからだ。この部分のロスが砂の全質量の5~10%。補充砂はこの部分を補うが、この時、補充砂の粒の大きさ(粒径)の分布をコントロールすることで、洗った後の砂粒の分布を全場均質に近づけるよう努力しているという。補充分の影響で、洗うたびに砂の組成も変わる。 砂の産地によらず、比重がほぼ均質なのは既に示した。クッション砂の厚さは原則9センチで共通だ。この上、砂粒の粒径の分布までほぼそろえるとなると、産地の違いで生じる差は、ほぼ色味だけになる。すなわち、物理的指標で考える限り、砂の産地が違ったところで、競走における「砂質」の差は生じないだろう。「どこそこが重い砂で、こっちは軽い砂」みたいなことは起こらない。 土壌の物理性状を図る指標としては、ほかに粘性と吸水率があるが、粘性は「砂」の基本的性状がそもそも「粘性はほぼゼロ」だ。使ってシルト化した部分を別にすればほぼゼロでいい。吸水率だけは、海砂が3%に対して川砂が1%。珪砂は1%を下回る。雨馬場からの乾きやすさは若干異なってくるかもしれない。
中日スポーツ