途絶えた通信、信じられない・・・乗るはずだった防災ヘリ墜落 半分以上の同僚失った事故から7年、仲間に誓う安全運航
2017年に起きた長野県県消防防災ヘリ墜落事故
2017年に長野県県消防防災ヘリコプター「アルプス」が松本市入山辺の山中に墜落し、搭乗していた県消防防災航空隊9人全員が亡くなった事故から7年。事故後、同隊のヘリ操縦士となった元松本広域消防局消防士の上地洋平さん(38)は、教訓を胸に信州の空を飛んでいる。 【写真】「子どもたちはちゃんと大きくなっているよ」墜落から7年を迎え、追悼式で献花する遺族=5日、長野県松本市
「凡事(ぼんじ)徹底。これを意識しなければすぐそこに事故が潜んでいる」。15年に入隊した上地さんは自戒する。
初めて空の飛び方教わった機長も帰らぬ人に
県が消防士から操縦士を養成しようとした際、「究極の人命救助の現場に携わりたい」と手を挙げた。養成機関で1年3カ月にわたる訓練を終え、アルプスの操縦免許取得に向けて訓練していた最中に墜落事故は起きた。 県消防防災航空センター(松本市)の事務室で、アルプスの通信が途絶えたのを聞いた。「信じられないと言うしかなかった」。一度に半分以上の同僚を失い、空の飛び方を初めて教わった機長も亡くなった。 それでも「ヘリで人命を救助する」との思いは変わらなかった。「みんなの分まで頑張らないと」。事故の1年後に訓練を再開し、18年末に免許を取得した。
現在、機長の要件を満たさなくても一部任務で機長に代わって操縦が認められる「限定機長」として任務に励む。これまでの操縦時間は計700時間ほど。操縦席に座って運航に責任を持つ「機長(専任機長)」になるには千時間が必要で、2年後には超えそうだ。機長を隣に乗せ、気流や天候の推移を予測しながら操縦経験を積む。
もう一度現場に戻った大ベテラン
上地さんを隣で支えるのは県警で30年以上ヘリを操縦し、昨年4月に入隊した望月一浩さん(62)だ。海上自衛隊や民間航空会社を経て、1989年に県警に入った。30年以上、信州の空をくまなく飛び、遭難救助に携わってきた大ベテラン。操縦時間は約8千時間に上り、県警時代は延べ1468人を救助した。 県警で操縦していたヘリの運航が終了した62歳で退職したが、経験を生かしてほしい―と消防防災航空隊から依頼を受けた。アルプスの墜落事故から運航再開に向けて助言していたこともあり、もう一度、現場に戻ると決めた。
3千メートル級の山岳地帯を抱える信州。尾根上や谷筋の急峻(きゅうしゅん)な地形などで刻一刻と変化する天候や風を読み解く必要がある。望月さんは「操縦技術は若手も高いものがあるが、出動経験はまだまだ。私の経験を生かして育成していきたい」。信州の空で培った飛行技術を後進に託す。 1日、上地さんは道中の雪かきをしながら鉢伏山の事故現場を訪れ、「今年も安全に任務が達成できました」と手を合わせた。「消防士と操縦士の架け橋になる。そしてお互いに尊重できるコミュニケーションを取り、安全運航を実現する」。そう誓い、7年目の慰霊の日を迎えた。