5日前でも会場が決まらず、海外組も待機に…なでしこJが極限下で迎えるアジア最終予選、北朝鮮との「絶対に負けられない戦い」
海外組も困惑「北朝鮮の一つの狙いかもしれない」
大変なのは海外組だ。 今回の最終予選には11人の海外組が招集されているが、それぞれの国でシーズンが異なるため、コンディションはバラバラ。アメリカでプレーする杉田妃和やスウェーデンの谷川萌々子はシーズン前で、初日から国内合宿に参加しているが、イタリア(セリエA)やイングランド(FAスーパーリーグ)はシーズン中。そのため、最後に合流する長野風花、清水梨紗、林穂之香、植木理子の4人は20日に日本に到着する予定だった。だが、チームの行き先が決まっておらず、帰国してもすぐに発つ可能性があるため、負担を考慮してイングランドで待機となった。 もっと早く、会場が決定していれば――。 だが、「たら・れば」を考えていたら、それこそ相手の思うツボになりかねない。 「これ(ギリギリまで開催地が決まらないこと)も北朝鮮の一つの狙いかもしれないので、置かれた場所でできることに集中したいです」と神妙な表情でコメントしたのは谷川萌々子だ。 谷川は昨年10月のアジア競技大会で北朝鮮と対戦しており、勝利にかける相手の執念も、身にしみて感じている。 見方によっては、自国で開催することができなくなった北朝鮮も今回の延期交渉の被害者といえるものの、何らかの交渉カードを持ってこの状況をうまく利用している可能性も否定はできない。戦いはすでに始まっているのだ。
国際舞台に復帰してきたアジア最大のライバル
北朝鮮はFIFAランク11位(日本は10位)で、過去にはAFC女子アジアカップ、アジア競技大会、E-1サッカー選手権で3度の優勝を誇る強豪だ。 新型コロナウイルス感染症で国境を封鎖していたため、2019年以降は国際舞台から姿を消していた。だが、昨年復帰を果たし、10月のアジア競技大会で準優勝。その後、10月末のパリ五輪アジア2次予選では韓国と中国を抑えてグループ首位で最終予選に進み、年末の東アジアE-1選手権でも3連勝で優勝した(日本は不出場)。同大会のメンバーの平均年齢は21.5歳と若く(日本は24.7歳)、国内組中心となっているため、代表が長期で活動できるのも強みだ。 ただし、直近の対戦となったアジア競技大会では日本が4-1で圧勝した。戦ったのはなでしこジャパンではなく、WEリーグの有力選手を中心に構成された別編成の日本女子代表で、即席チームだった。 同大会で決勝の北朝鮮戦に出場したメンバーの中で、今回の予選に参加しているのは千葉玲海菜、上野真実、中嶋淑乃、谷川萌々子、古賀塔子の5人だ。 相手のラフプレーに苦しみながらも冷静さを失わず、勝利を決定づける4点目を叩き込んだ千葉は、今回も相手の心理戦を受けて立つつもりだ。 「(マークされる時に)ガシッとつかまれたり、見えないところでも駆け引きしてくるので、嫌でしたね。ただ、相手もいろいろなプレッシャーがかかっていたと思うし、負けていてイライラしていたのもあると思います。今回も(先に)点を決めて、同じようにさせていきたいと思います」 同じく決勝で先制点を決めた中嶋は、「前から(守備に)くる相手で、裏のスペースが空くので、しっかり狙っていきたいです」と、相手の圧力を歓迎する。 加えて、今回は即席チームではなく、海外組も含めたなでしこジャパンのフルメンバーだ。「うまい選手がたくさんいるので、速いプレースピードの中でコンビネーションも増えると思いますし、点がたくさん取れたらいいなと思います」(中嶋)と、モチベーションも高まっている。 池田監督体制下の2年間半で積み上げてきたコンビネーションや一体感について、GKチームの一角を担う田中桃子は、特に昨年のワールドカップでの経験が大きいと感じている。 「ワールドカップで一つになれた経験を通じて、このチームに芽生えたスピリットがあると思うので。それを新しいメンバーにもうまく伝播させていければ、不安なく戦えるんじゃないかと思います」 海外組が合流するまでは紅白戦ができないため、国内合宿では日本体育大学女子サッカー部や筑波大学蹴球部(男子)の協力を得て、北朝鮮のハイプレスをイメージした非公開練習を行った。全員が顔を合わせてから試合までは、ほとんど時間がない。だが、田中(桃)が言うように、揺るぎない土台があれば、短期間でイメージを共有するのに苦労しないだろう。