新星、師弟対決、悲願の初勝利……さまざまな者の“意地”を見た『第3回CRカップ スト6』
■最初期から現在までのストリーマー×プロゲーマーの師弟関係がキモに
続いては全体を見ていこう。各チームのメンバーは本大会に向けて練習を重ねていったわけだが、一つ重要なキーとなったのは「師弟関係」だったように思える。 この1年ほどのあいだで格闘ゲーマー・ストリーマー・VTuberらがそれぞれ交流を深めた結果、次鋒・中堅・副将のなかには格闘ゲーマーの教えを受け、高いレベルで研鑽を積んだ者が多かったのだ。 ゲームが発売したばかりの頃におこなわれた初回大会では出場メンバーの大半はランクがゴールドやシルバーランク程度だったが、約10ヶ月経過した本大会では(初心者4名を除けば)ダイヤモンドランクが多数を占め、副将はすべてマスターランクという状況。「高レベルな対戦会」と呼んで差し支えのない、見応えのある大会となったのだ。 そのメンバーのなかでも、今大会に出場した三人称・ドンピシャとコーチ役であるSaishunkan Sol 熊本所属のひぐち、この2人はもっとも深い師弟関係をもつ組み合わせであろう。 2023年6月25日に開催された『第1回 Crazy Raccoon Cup STREET FIGHTER 6』にドンピシャが出場した際に、コーチ役としてひぐちと出会って以来、ここまで二人三脚で続いてきた関係だ。以降『REJECT FIGHT NIGHT Round2』『FAVCUP online SF6 #8』『第29回 iXA CUP』とさまざまな格闘ゲーム大会に出場するドンピシャを、ひぐちはコーチングしてきた。 「日本一のガイル使い」と呼び声高い師匠・ひぐちと弟子・ドンピシャのコンビは『スト6』配信でもおなじみとなり、この大会でも2人は練習をともにしていたのだ。 ほかにも、おぼ&ハイタニ、如月れん&フェンリっち、獅白ぼたん&稲葉/ACQUA(あくあ)、奈羅花&よっさん/マゴ、叶&Reiketsu/あきらなど、長く続く師弟関係を背負って今大会に臨んだ選手が多かった。 また初出場となったメンバーにもプロプレイヤーや大将がしっかりとコーチングをおこない、『スト6』上級者であるリスナーをプライベートマッチに呼び寄せて対戦・研究・指導する流れが生まれたことで、今大会は過去と比較してもかなり高いレベルの試合が繰り広げられることとなったのだ。 一方、前述したような二人三脚で本大会に臨む師弟もいれば、師匠と弟子とで闘うことになった2人もいる。にじさんじ・葛葉とボンちゃんだ。 第1回大会に出場した葛葉は、チームメイト・大将だった梅原大吾からコーチとしてボンちゃん、Nobleの2人を紹介されて『スト6』の練習をスタートした。 特に前作『ストリートファイター5』をプレイした際にはボンちゃんの動画をかなり参考にしており、今作でルークを使うと決めた際にもボンちゃんのコンボ動画をみて参考にしていた(始めたてだったため当時は「いやこんなん無理無理!」と半ば諦めていたが)。 第1回大会を通じてボンちゃんの教えを受けた葛葉は、大会後もソロ配信でマスターランクへと到達し、折を見てプロゲーマーやストリーマーらとチームを組み大会に出場してきた。また自身が主催する『KZH CUP』や『にじさんじ6周年企画』にも出場するなど、この1年ですっかり「にじさんじの『スト6』強者」の看板を背負う1人となったのだ。 そして迎えたこの第3回大会では、「老師」と慕うようになったボンちゃんとの対決が実現。本人が口に出すことこそなかったが、並々ならぬ気持ちで臨んだことは想像に難くない。 なお葛葉の仕上がりはというと、今大会では世界大会優勝経験もある格闘ゲーマー・カワノをコーチにして練習を組んでいたが、カワノの技・動きにもしっかりとついていき、3-0と勝利を収めることすらあった。カワノが普段の持ちキャラではないうえでの対戦とはいえ、プロにも勝利を収めるほどに仕上がっていたようだ。 ■見どころだらけだった各4チームのハイライト 大会結果を先に記せば、しゅーと、葛葉、わいわい、おぼ、スタンミの「スペシャルウルトラスーパーズ」が優勝を果たした。大会の主催を務めるCrazy Raccoonへの加入が発表されたしゅーとが、自身の新たな門出を飾った格好となったのだ。 このチームの特徴といえば、ふだんから口数が多くにぎやかな面々が集まっていた点だろう。5人が揃うと練習中・試合中・休憩中と常にガヤガヤとした空気になっており、笑いの絶えないチームであった。 「28歳にして一番の最高出力がきた!」とアピールしていたスタンミが勝利をもぎ取れば、「オレ史上もっとも強い日です」と自己評価した葛葉は、SHAKA、ドンピシャ、sasatikkと並んだ副将戦で全勝を収めてチームに貢献。 かずのこ、どぐら、師匠・ボンちゃんとの「大将挑戦戦」では、1戦先勝方式でかずのことボンちゃんから1ラウンドを奪い、“葛葉史上最高の葛葉”が大金星を掴むまであと1Rと迫ったのは非常にドラマティックであった。 普段はひねった言葉選びで笑わせることの多い葛葉だが、格ゲーの対戦となると一転して口数が減り、眼の前の戦いに思いっきり集中していく姿をみせてくれる。これまでプレイしてきたチーム対戦ゲームやバトルロワイヤルゲームと異なり、格闘ゲームは完全に自身と相手の1対1の対戦になる。ゾーンに入り込んで戦えるシチュエーションというのは、彼としてもうれしいことなのかもしれない。 この日の配信タイトルに「教えてもらった全てをぶつける」という真っ直ぐな言葉をつけたあたり、尋常じゃない気持ちを滾らせていて本大会を迎えたのが伝わってくる。 そして師匠・ボンちゃんが葛葉を「強くなったね」と褒め称え、その実力が確かなものであるとハッキリ示すことができた、充実の大会だったといえよう。 そんな師匠・ボンちゃんのもとには、葛葉の所属するにじさんじから3人、不破、渡会、叶に加えてドンピシャとが揃い、「おじさんじ」としてチームを組んだ。 明るく周囲を盛り上げる不破と渡会の2人が揃っていたこともあり、ぎこちないコミュニケーションを払拭するどころか、ネガティブなムードに陥ることもほとんどなくスクリム・大会へと進んでいったのはさすがといったところ。 特に渡会がバーンアウト状態に入ったキャラクターを「脱ぐ」と形容する口癖がチーム内に広がると、バトル中や練習でも「脱ぐ」「脱がす」「脱がされた」と言い合って笑いあうシーンが生まれた。 男5人で集まっているからかちょっとした口癖がまるで思春期の男子高校生のようなノリで広がっていった流れは、ファンにとって微笑ましいものに映ったのではないだろうか。 本大会中は選手・コーチ陣合わせて最大12人の面々が同じボイスチャットで会話し、相手の対策について言葉をかわしたり、駆け引きの一つ一つに一喜一憂したりと、男12人の熱気が非常にダイレクトに伝わってきた。 初心者枠として呼ばれた不破は「クラシック操作で大丈夫か?」という心配の声を蹴散らすほどに実力を磨き上げ、個人成績2勝1敗でチームの決勝進出に力を添えた。 惜しくも準優勝となったが、にじさんじの面々が格闘ゲーマーらと繋がりをより強くしたという意味で、今後より面白い進展が起こっても不思議ではないかも知れない。 決勝に残れなかった2チームは、「じゃすとインパクト」と「特選中落ちかるび」だった。 じゃすぱー、獅白ぼたん、奈羅花、SHAKA、どぐらの5人によるチーム「じゃすとインパクト」内でも、やはりじゃすぱーとスタンミのライバル勝負に注目が集まった。第3戦で相まみえた2人の真っ向勝負は2-1でじゃすぱーの勝利となった。雌雄を決した直後にはお互いに大声をあげ、悲喜こもごもに気持ちを爆発させていた。 そんな2人以上に感情があふれ出る様子を見せたのが、ホロライブ・獅白ぼたんであった。 これまで2度に渡って『Crazy Raccoon Cup STREET FIGHTER 6』に出場してきたが、すべて敗北を喫していた彼女。いつの間にか口癖のように「どぐらさんに初勝利を見せたい」「1勝をみせるまでやめられない」と話すようになっていた彼女に、ようやくチャンスが巡ってきたのだった。 第2戦に当たった赤見かるびに対して初勝利を挙げ、「やった! 勝ったぁ!!」と喜ぶ獅白。大会を視聴していた筆者は、この時点では単に喜んでいるだけかと思っていた。だが、チームのボイスチャットに戻ってチームメンバーやコーチたちの声を聞いた瞬間に、心のどこかがフッと緩んだのだろう、ぼたんは自分でも止めることができないほどに泣いたのだった。 人目をはばからず……とはまさにこのこと。初めて見る姿に動揺する奈羅花、すこし笑いながら様子を見守るSHAKAとだるまいずごっど、「嬉し泣きはなんぼでもいいのよ」と声をかけるコーチ・ACQUAと、メンバーたちが様々に彼女をいたわるあたたかな雰囲気が生まれた。 前回大会で涙を隠せなかった彼女は、今回も涙を隠すことはできなかったが、悔し涙から嬉し涙へと変わったのだ。 また奈羅花のコーチとして帯同したマゴが、持ち前のフランクな性格で的確なアドバイスとお笑いを提供し、スクリム・本大会を通してチーム全体を盛り上げる役となっていたのは頼もしい限りだった。「運動会にやってきたお父さん」「まるで父兄参観や保護者会」とツッコまれつつ、別け隔てなく言葉をかわしていく姿に彼の人間力を見た気がした。 また、ファン太、赤見かるび、如月れん、sasatikk、かずのこによるチームの「特選中落ちかるび」は、ひとつひとつの差し合いで有利を重ねることさえできていれば、優勝していたのは彼らだったのではないか? と思えるほどだった。そう、今大会は全チームの実力が非常に拮抗した大会だったことは記しておきたい。 チームメンバーの大半が穏やかかつ落ち着いたメンバーで、イジりやすいかるびにメンバーたちがちょっかいをかけても、大声で煽り合うようなことがほとんど起こらなかったほどの温和なムードであった。 かずのこ、sasatikkともに様々なゲームをプレイするタイプであり、ある程度理論的にゲームをやりこんでいくタイプということで2人の会話に期待を持っていたリスナーは多いだろう。実際、面白いかみ合わせを見せてくれたのだった。 対戦前後のコーチとの練習時間でさえも、和やかに会話しつつ黙々と練習を重ねていくメンバーたち。非常に優等生的な面々が揃ったともいえるが、やはり大会本番となれば別。 格ゲー大会に初めて出場する如月れんは、緊張しいだという話は以前から話題になっていた。しかし本番はというと、初戦でチームを応援しているときから声が普段よりも高く、いつものおとなしげでクールな姿ではなかった。 ラウンド間にアドバイスを受けているときに「アホほど緊張する!」と口走り、戦っているあいだにも「緊張しすぎてラッシュが出ない」と自己分析を交え、なんとか勝利を収めれば「やあぁったああ!!」と、普段なかなかみせない歓喜の声をあげる彼女の姿があった。 なにより、sasatikkは前回大会で大将・どぐらに勝利して金星をあげていたこともあり、「sasatikk vs どぐら」の対戦はファン・出場者全員が注目するカードとなった。ふたたびどぐらを追い詰めるsasatikkに対し、実況・解説にくわえて観戦していた他のプロすらも驚くカウンター技で勝利をもぎとったどぐら。もはや「CRカップの名物」という声があがるほどの素晴らしいエンタメとなっていた。