2次避難を拒む認知症の母「家を離れる理由が分からない」。「快適だけど牢のようだ」知人のいない温泉旅館で沈む海女さん。古里か安全か…正解のない能登で記者は言葉を失った
喫煙所に集まる人に話を聞く中で出会ったのが、石川県輪島市鳳至町の海女、伊藤梅子さん(75)。加賀市内の温泉旅館に2次避難していた。食事もあって買い出しにも行ける避難生活に満足しつつも、「早く古里に帰りたい」と涙ながらに胸の内を明かした。 屋根や壁はめくれ車中泊…「受験の後れを取っているかも」。父の後押しで石川県穴水町を離れた。ひかりさんは避難先の鹿児島で前を向く「多くのものを失ったが人の温かさに救われた」
自宅は全壊。夫と近くの避難所で10日以上過ごした後、行き先も把握しないままバスに乗った。知人たちは途中で降りて別の避難先へ。温泉旅館に顔見知りはほとんどいない。 海女仲間との日々を熱心に話す様子に、地元愛の深さと、話し相手がいないさみしさが伝わってきた。たばこを吸い終えた後、「快適な避難所もなぜか牢(ろう)のように感じるのよ」とつぶやき、部屋に戻った。 一方、多くの住民が避難している輪島市河井町で出会った60代男性は、自宅で生活し続けていた。認知症の母が古里を去る理由が理解できず、家から離れられないという。安全を考えると避難したいが、持病もある母は長時間移動ができない。「母の地元への思い、安心した生活…どちらも軽視できない」と葛藤する。 別れ際にふと「あなたならどうする」と問われた。その質問にまだ答えを出せていない。 〈能登半島地震「被災地を歩いて~本紙記者ルポ」より〉
南日本新聞 | 鹿児島
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