復興途上の故郷「忘れないで」 豪雨被災の福岡県朝倉市出身シンガー・ソングライター「えとぴりか」さん 歌で広がる賛同の輪
「被災した故郷に歌で恩返しを」。一人のシンガー・ソングライターの思いが賛同の輪を広げている。2017年の九州豪雨で被災した福岡県朝倉市出身の「えとぴりか」さん。各地で災害が相次ぐ中、復興途上にある故郷のことも忘れないでほしいと願う彼女の行動が、企業や行政を動かし、チャリティーライブが実現した。 ライブは朝倉市へのエールで締めくくった 福岡市天神の「ふくぎん本店広場」で3月31日に開催された「朝倉豪雨災害復興チャリティー あさくらライブ&マルシェin天神」。趣旨に賛同して出演した8組のインディーズミュージシャンの最後に、彼女は自作の復興支援ソング「風のおたより」を歌った。 「君の笑顔に今何ができるかな 隠した涙をずっと知っていたから」 会場には復興の現状を示すパネル展示があり、朝倉市からフルーツや醤しょう油ゆ、畳の加工品など特産品の出店も並んだ。自らも被災した「あさくら観光協会」事務局長の里川径みち一かずさんは「歌はみんなが一つになれる」と開催に感謝する。 えとぴりかさんは短大を卒業後、故郷で3年ほど事務職として働いた。趣味でギターの弾き語りを楽しんでいたが、若手発掘コンテストで福岡県代表に選ばれ、九州大会に出場。プロを目指し、退職して福岡市に移り住んだ。 九州豪雨で実家は無事だったが、1キロ先の家は水に漬かった。先輩ミュージシャンたちが後片付けのボランティアをしていることを知って参加。泥に覆われたカキ農家で汗を流した。 故郷の惨状を知り、被災者から「ありがとう」と言われてハッとした。 「私でも人の役に立てる。生きる意味はそこにあるのかも」 すぐに、ライブ会場で義援金を集め始めた。歌で故郷に貢献したかった。コツコツ集めては、朝倉市役所に持ち込んだ。そんな活動が、地元ミュージシャンの支援に力を入れていた音楽関係者の目に留まる。 福岡市のライブハウス「キャバーンビート」代表の町田秀樹さんと、RKBラジオ「デモテープ~福岡音楽時代」のプロデューサー富永倫子さん。えとぴりかさんを発起人に、2019年から4年間、福岡市内のホールでチャリティーライブ「F-POP歌謡祭」を開いた。 22年には同市の不動産会社、三好不動産が特別協賛で加わった。昨年はRKBラジオが呼びかけ、朝倉市の「三連水車の里」で2月と5月にチャリティーライブを開催。三好不動産が立ち上げた学生ボランティア団体「一般社団法人アースプロジェクト福岡」(登録者約2千人)の学生たちも参加し、集まった義援金約10万円を市に寄付した。 学生やミュージシャンたちは、避難した住民たちの命を守った旧松まつ末え小学校などを訪ね、災害の爪痕を目の当たりにした。その時、被災者から聞いた言葉が参加者の胸を打った。 「復興には何十年もかかる。忘れられるのが一番つらい」 支援継続には、どうすればいいか。富永さんは福岡音楽都市協議会の理事、深町健二郎さんに相談。「被災地の現状を多くの人に発信するには天神がいいのでは」とアドバイスされた。 福岡銀行の後援を得て、会場は本店広場に決定。朝倉市とアースプロジェクト福岡が主催し、後援には福岡県、福岡音楽都市協議会、WeLove天神協議会も名を連ねるなど、大きな枠組みができた。 「支えてくれた多くの人に感謝して、今後も自分にできることをやっていきたい」 歌い終えたえとぴりかさんは、支援継続を誓った。(加茂川雅仁) ■ライブに出演したミュージシャン あかたろ、Boyz Green March、RENA、元村りか、Raspberry Dream、春夏、Banana Chips、えとぴりか