足るを知る(1月19日)
ペットロス―。家族の一員としてかわいがった犬猫が亡くなったり、突然姿を消したりしてしまったら、飼い主の悲しみは計り知れない。「もう一度会いたい」とは、かなわぬ願いなのだろうか▼中国では、ペットのクローンをつくる商売が活況を呈しているそうだ。1匹数百万円もかかるのに、注文が殺到している。日本からの依頼も飛び込む。米国、韓国でもビジネス化されているという。科学の進歩には驚くばかりだが、「自然の摂理に反する」と生命倫理を巡って議論を呼ぶのもうなずける▼仏教の言葉にトリシュナー(渇愛)がある。のどがカラカラになった状態を指す。難破した際、海水を飲み、ますます乾きがひどくなる。欲望の海をいつまでも漂い、満たされることはない。煩悩とも言う。心の奥底に潜む。不幸の原因とされた(主婦と生活社「仏教早わかり百科」)▼震災と原発事故が起きた際、ペットとのいくつものつらい別れがあった。「今も心の中を駆け回っているよ」。そんな気持ちの人もいるかもしれない。激震に見舞われた北陸の被災地はどうなのだろう。思い出を心の糧に生きる―。足るを知れば、先端技術に勝る豊かさに包まれる。<2024・1・19>