『ピザハット』がTikTokで急成長を遂げた要因とは? キーパーソンが語り合う“成功の秘訣”
昨今耳にするようになった「TikTok売れ」という言葉。こういった言葉から、TikTokがいま、企業のマーケティングに欠かせないプラットフォームになっていることがわかる。しかし比較的新しいプラットフォームであることもあり、活用に苦戦している企業も。大手ピザチェーンの日本ピザハットもかつてはそんな企業のひとつだった。 【画像】ネクストXを探せ、Z世代が選んだ「トレンド寸前!次世代SNS TOP10」ランキング ピザハットのTikTok運用はスタートこそ順調そのものだったが、その後停滞。ところがTikTok運用にまつわる専門的な支援を行うLeading Communicationのサポートを受けたことで、2023年3月から9ヶ月間でフォロワー数が220%成長、6万人のフォロワーを獲得するなど急成長を遂げたのだ。 そこで、今回は株式会社Leading Communication SNSマーケティング事業部 取締役 事業本部長を務める井上光 氏と日本ピザハット株式会社 マーケティング イノベーションデザインユニット ユニットマネージャーのフィギギ麗花 氏、ピザハット×天下一品のコラボ企画に起用されたTikToker・SHIGE 氏にインタビューを敢行。日本ピザハットのTikTok運用や急成長の裏側、インフルエンサーのコンテンツ起用について話を聞いた。 ・「もっと伸びるのにもったいない」当時のピザハットのTikTokの課題 ーーまずはTikTokを運用することになった経緯を教えていただけますか? フィギギ麗花(以降、フィギギ):ピザハットには“Younger and Everyday”というコンセプトがあり、ブランドとしてより若返りしていきたいという考えのもと、拡散力の高いTikTokを通じて若年層へアプローチしていこうという目的で、2022年の4月にアカウントを開設しました。 ーーLeading Communicationさん(以降、LC)がアカウント運用のサポートに就くことになったのにはどういった経緯があったのでしょうか? 井上光(以降、井上):当時、弊社は「絶対もっと伸びるのになんかもったいない」と思うような企業を見つけては営業をかけていました。そのなかにピザハットさんも入っていて、フィギギさんにお声がけするところからスタートしました。 フィギギ:TikTokアカウント立ち上げ当初は、ブランドアンバサダーが出演する動画など強いコンテンツが準備できていたこともあって、フォロワー数も3万人くらいまでは順調に推移したんですが、それ以降TikTokのトレンドにのった企画を作ってもあまり再生が回らず、フォロワーの獲得にも伸び悩み、どうしたものかなと思っているときに電話をいただいたんです。 営業の電話って自分たちの伝えたいことを言ってくることが多いのに、LCさんは最初から丁寧なヒアリングをしてくれて。電話をくれたスタッフの方がもともとピザ屋でアルバイトをしていたというのもあって、ピザを作る工程や国内の宅配ピザ業界のことを知っている方が電話をくれたことも、お話を聞いてみようと思ったきっかけでした。 井上:いっぱい営業をかけられていたと言ってましたもんね(笑)。当時、ピザハットさんは別の代理店を使われていて、その代理店からのレポートや動画の分析、改善が課題というお話だったので、過去1年間に投稿された動画を全部みて、コンテンツを「当たり」「外れ」に分けた仮説シートを作りました。それをもとに1発目の打ち合わせに挑みました。 ーーLCさん側では当時、ピザハットさんのアカウントにどのような印象を持たれていたのでしょうか? 井上:企業のアカウントにはクリエイターを起用して社員として出てもらっているアカウントと、実際の社員の方が出ているパターンの2種類あるんです。実際の社員が出ている方が会社や商品への愛とか熱が伝わるので、我々としては伸びると思っています。ピザハットさんはすごく有名な企業で、かつコンテンツに出ていた社員の方だと思われる方たちがすごく魅力的だったんです。 ーー「もったいない」という言葉が先ほど出ましたが、どのあたりが課題だと思いましたか? 井上:このアカウントには、こういうコンテンツが並んでいるという「コンテンツのトンマナ」が、まだ統一されていないと思ったんです。これはいろんなものを出して当たるコンテンツを見つける段階では起こることなんですが、フォロワーが3万人もいる状態でまだそこが定まっていないのは、答えを見つけられていないんじゃないかと。その辺りが課題だと思いました。 ・「無茶振り企画」はTikTokの勝ちパターン ーー日本ピザハットさんとしては、当時からメニュー開発企画や飲食業界の他社とのコラボは頭にあったのでしょうか。 フィギギ:『パクチーすぎて草』や『【衝撃】多分それ違うwwwウインナーコーヒー』は弊社のTikTokメンバーで開発した商品なんですが、こういった奇抜な商品を誕生させることができたのは、LCさんのおかげなんです。 我々にはいくつかTikTokの勝ちパターンといえる企画があって、そのひとつに視聴者のリクエストにお答えしてピザを作る「無茶振り企画」があります。寿司やもつ鍋、おでんなどを使ってピザを作る企画をTikTokで始めたことで、こういう自由な発想で商品を作ってもいいんだと、型にはまらない思考で考えられるようになりました。 井上:TikTokはエンタメ寄りなものが好まれることもあって、ユーザーに「あれやってほしい」とリクエストさせるというのも“TikTokっぽい”んです。いろんな企業をみていますけど、ユーザーを巻き込んでコンテンツを作っているのは、たぶんピザハットさんくらいだと思います。 ーーパクチーとウインナーコーヒーピザがヒットした理由は何だと思いますか? フィギギ:SNSでバズりそうなところを狙いました。『パクチーすぎて草』の「草」は「笑い」という意味なので、「パクチーがモリモリすぎてこんなの売っちゃヤバいだろ」のような話題を生めるような商品にしたんです。『【衝撃】多分それ違うwwwウインナーコーヒー』は、ウインナーソーセージが入ったコーヒーだと勘違いしている人が一定数いたので、みみにウインナーを入れて「勘違い」を、ピザの上にはコーヒーソースとホイップクリームをのせて「正解」を、「ウインナー×コーヒー×ホイップクリーム、なのにピザ。どういうこと⁉」というような疑問を生み出せたことがヒットに繋がったのかなと思っています。 井上:ほとんどの企業はこういうぶっ飛び企画はやらせてくれないんですよ。まず、こういうことやろうという話が社内で出ることはあんまりないでしょうし、ピザハットさんはぶっ飛び方のセンスがもともとあった。ここもピザハットさんの魅力なんだと思います。 ーーピザハットさんと天下一品さんのコラボメニュー『こってり風ラーメンピザ』も話題になりましたね。飲食業界の企業とコラボすることにはどういった狙いがあったのでしょうか? 井上:YouTubeではコラボは当たり前でしたが、当時TikTokではまだそんなになかったんです。企業でやっているところはおそらくなく、ピザハットさんに一発目になってもらおうとコラボを提案しました。 ただ、会社間コラボにすると凝々しくて、決済の話が始まって遅くなると思ったので、商材だけお貸しいただくコンテンツコラボという形にし、スピーディーに動くことを目標にしました。そうしたら意外と乗っかってくださったんですよ。コラボコンテンツは面白いし、伸びるだろうなと思っていたんで、それもあってやらせていただいた企画でした。 ・「必ずしもクリエイターが必要ではない」LCのキャスティング論 ーー天下一品さんとのコラボ企画で、動画にSHIGEさんを起用した理由を教えていただけますか? フィギギ:私たちのTikTokは男女比が50:50で、天下一品さんのファン層は男性が多いんです。男性にアプローチしたいと考えた時に、いま勢いがあって自然に面白く訴求してくれる人というので、SHIGEさんがいいんじゃないかなと思って。 もともとLCさんと取り組み始めた頃に投稿した動画で、勝手にSHIGEさんの動画をパロディーさせてもらっていたんです。そこから見てくださっている方は、「ついに本家とコラボ」みたいに盛り上がってくれるのではないかと思って、SHIGEさんの良さを100%出す企画で、天下一品さんとのコラボを自然な形でやりたいと打診させていただきました。 ーー作り込んだうえでのコラボだったんですね(笑)。井上さんは自社のクリエイターを起用する際に考えていることはありますか? 井上:僕たちは必ずしもクリエイターが必要ではないと思っていて、クリエイターを出すことで掛け算になって、動画が伸びていくとかバズるのであれば起用した方がいいという考えなんです。単に影響力が強くてフォロワーが多い人をキャスティングして失敗した事例もたくさん見てきたので、クリエイターの普段の投稿のトンマナやそのクリエイターのフォロワー、企業の目的がちゃんと掛け算になっているか、そのインサイトをすごく大事にしています。 ーーピザハットさんとSHIGEさんの相性は良かったということですよね? 井上:これはピザハットさんが先に動画でパロディをしてくれていたことが大きいです。 フィギギ:SHIGEさんはファッション系のクリエイターで、飲食の我々とは囲っているファン層が違うというのもあって、新規の方に見てもらう機会がより増えるんじゃないかと思ったんです。 ーーSHIGEさんはピザハットさんと天下一品さんのコラボ企画動画に出演されましたが、ピザハットさんの印象を教えていただけますか? SHIGE:ピザハットさん、体張っているなと。コンテンツを見てみると、魚のコスプレをしていたり、意外と面白い企業なんだと思いました。 ーーピザハットさんの魅力を伝えるために意識したところ、工夫したことはありますか? SHIGE:赤と黒の洋服でピザハットカラーを表現したり、コーディネートを少なくしてピザが映るシーンを多くしました。あまり食レポをしたことがなかったんですけど、商品の良さとピザハットさんの楽しさを伝えられたと思います。予想以上に数字も伸びましたね。 ーーピザハットカラーを使ったファッションは印象的でしたが、クライアント企業の魅力を伝えるためのクリエイターができることはありますか? SHIGE :洋服で企業のイメージを作るというのも、自分の面白さのひとつなんですね。これまでもファッションを軸にしていろいろやってきたので、ファッションとブランドをイメージさせるものを組み合わせて面白さを伝えることや、何か絡められるものはないか意識しています。 ーーその考えが反映された結果、いい動画ができたんですね。天下一品さんのほかにもこれまでさまざまな企業とコラボされていますが、やってみていかがでしたか? フィギギ:クリエイターや企業とのコラボはユーザーの反応がとてもよく、「ピザハットってそういうこともやるんだ」という意外性も面白さにつながっていると思います。まったく異なる業界や企業、ジャンルが違うクリエイターの方々と取り組むことは、我々の想像力にしっかり活きてくると思いますし、視聴者のファン化に繋げられているようなので、LCさんやコラボ先のみなさまには本当に感謝しかありません。 ーーすでに大きな成果が出ているTikTok運用ですが、今後の展望を教えていただけますか? 井上:当初は若年層やほかSNSにはいない層をとりにいくことが目標でしたが、これまでの取り組みでその層にはリーチできたと思っています。ここまでの過程も含め成功だと感じているので、次はそのリーチをフォロワーやファン化し、コミュニティを作ることが役割だと考えています。コミュニティに変えていければ、TikTokはほかのSNSとは違った活用ができるので、新規のリーチは取り続けながらもライブ配信やリアルイベントに挑戦して、リアルとデジタルを行き来させるような仕組みを作り、ファンを固めていければいいなと思っています。 フィギギ:いままでにやったことがないライブ配信に挑戦したいなと思っています。現在、フォロワーのみなさんにはコメントをいただき、返信をするというデジタル上のやり取りしかないので、今後面白い商品を企画したときに、試食会などのリアルイベントを企画して、みなさんの反応を見たり、感想を聞いたり、直接交流できる場も作っていきたいです。
せきぐちゆみ