ロシア軍によるウクライナ人捕虜の処刑、ますます増加
ヴィタリー・シェフチェンコ・BBCモニタリング・ロシア編集長 ウクライナ軍の狙撃手、オレクサンドル・マツィエフスキー氏は、ロシアが全面侵攻を始めた2022年にロシア軍に捕らえられた。 その後、森の中で最後のたばこを吸う、同氏の映像が浮上した。強制的に掘らされたであろう墓の横に立っていた。 「ウクライナに栄光あれ」。彼がロシア兵らに向かってそう言った直後、銃声が連続し、彼の体は崩れ落ちた。 これは、数多く行われている処刑の一つだ。 今年10月には、ロシア西部クルスク州で捕虜となったウクライナ兵9人が、ロシア軍によって銃殺されたと報じられた。地面に半裸の遺体が並べて横たえられている写真が出回っており、ウクライナの検察当局はそれも含め、この事案について調査を進めている。 写真に写っている犠牲者の1人については、ドローン(無人機)操縦士のルスラン・ホルベンコ氏だと、両親が確認した。 「下着でわかりました」。母親はウクライナの公共放送局「ススピーリネ・チェルニヒウ」にそう言った。「海に旅行に行く前に買ってあげたんです。それに、彼は以前、肩を撃ち抜かれていたのですが、この写真ではそれもわかりました」。 処刑はまだまだある。ウクライナの検察は、頭部を切断されたとされる事案や、両手を後ろに縛られ剣で殺されたとされる事案を捜査している。 動画が浮上した別のケースでは、降伏して森から出てきたウクライナ兵16人が整列させられ、自動小銃で一斉に殺されたとみられる。 処刑の動画は、ロシア軍が撮影したものもあれば、ウクライナのドローンが上空から撮影したものもある。 動画に記録された殺害は通常、特徴のない森や野原が現場となっている。そのため、正確な場所を特定するのが難しい。それでもBBCヴェリファイ(検証チーム)は、前述の斬首の事案などいくつかのケースで、犠牲者がウクライナの軍服を着ていることや、動画が最近撮影されたものであることを確認している。 ■増加の一途 ウクライナの検察は、ロシアによる本格侵攻が始まって以来、少なくとも147人のウクライナ人捕虜がロシア軍に処刑されたとしている。うち127人は今年だったという。 「増加傾向は非常に明確、明白だ」。ウクライナ検察で戦争犯罪を訴追する部門を率いるユーリ・ベロウソフ氏はそう言う。 「処刑は昨年11月に組織的に行われるようになり、今年もずっと続いている。悲しいことに、その数は今年の夏から秋にかけて特に増えている。このことから、処刑が孤立事案ではないことがわかる。広い地域で行われており、方針の一部であることを示している。そのような指示が出されている証拠もある」 国際人道法、中でもジュネーヴ諸条約第3条は、捕虜の保護を定めており、処刑は戦争犯罪になる。 だが、ロシア・チェチェン共和国の強権的な指導者ラムザン・カディロフ氏は、ウクライナでの戦争に関わっている指揮官らに「捕虜を取るな」と簡潔に命じた。 ■処罰されず 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の欧州・中央アジア部副部長レイチェル・デンバー氏は、ウクライナ人捕虜がロシア軍に処刑されたことを示す証拠はいくつもあると説明。処刑が行われているのは、関わった人が責任を問われないことが大きく、ロシア軍は深刻な疑問に答える必要があるとして、次のように問う。 「これらの部隊は、公式あるいは非公式に指揮官からどういう指示を受けているのか。指揮官は、捕虜の扱いについてジュネーブ諸条約が定めていることを明確に理解しているのか。ロシア軍の司令官は部隊に対し、行動について何を伝えているのか。これらの事案を調べるために、指揮系統はどんな手順を踏んでいるのか。そして、もし上層部が調べていなかったり、そうした行為を防ぐための策を取っていなかったりした場合、上層部もまた刑事責任を負い、責任を問われる可能性があることを認識しているのか」 これまでのところ、ロシア軍がウクライナ人捕虜を処刑しているという訴えについて、ロシアが正式に調査していることを示すものは何もない。ロシアでは、同様の疑惑を口にするだけで長期間、刑務所に収監される可能性がある。 ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア軍は「常に」ウクライナの捕虜を「国際的な法的文書や国際条約に厳格に従って」扱ってきたとしている。 ウクライナ軍も、ロシア人捕虜を処刑したと非難されている。だが、その人数ははるかに少ない。 前出のウクライナ検察のベロウソフ氏は、そうした非難を検察は「非常に深刻に」扱っており、捜査を進めているとしている。しかし、これまでに起訴された人はいない。 ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ロシア軍は2022年2月に本格侵攻を始めて以来、「戦争犯罪や人道に対する罪として捜査されるべきものを含め、数々の違反」を犯してきた。 ロシア軍による虐待はかなりひどいとされ、ウクライナ兵の中には、捕虜になるより死を選ぶという者もいる。 「息子は私に言ったんです。『お母さん、僕は絶対に投降はしない、絶対に。泣かせてしまうと思うけど、許してほしい。拷問は受けたくないんだ』と」。前出のウクライナ兵、ホルベンコ氏の母親はそう言う。 ホルベンコ氏は公式にはまだ行方不明だ。そのため、母親はかすかな希望をもち続けている。 「わが子を取り戻すためなら、できることもできないことも、何でもします。この写真をずっと見続けています。もしかしたら彼は意識を失っているだけかもしれません。私は信じたいんです。彼が死んだなんて思いたくないんです」 (英語記事 Russia is executing more and more Ukrainian prisoners of war)
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