“奇跡のF1残留”から3年。ボアルース長野が直面する極限の重圧と、記者が現地で感じた緊張感|フットサル/F2特集コラム
1年ぶりに再確認した、長野の魅力
2023年に長野に加入して以来、人一倍の“ボアルース愛”をたぎらせる三笠は、「このクラブがどれだけ素晴らしいかは、ホームゲームに来ればわかる」とインタビューの度に同じ話を繰り返してきた。 かくいう私は、昨年9月に初めて訪れた「ことぶきアリーナ千曲」で、その言葉が大袈裟ではないと知った一人でもある。 試合の緊張感とは裏腹に、約1年ぶりに訪れた会場で過ごす時間は相変わらず楽しかった。 2018年に建て替えたばかりのきれいなアリーナの廊下に、アリーナグルメがずらりと並ぶ。その多くが県内でお店を営む方たちで、「試食をどうぞ!」「オマケするね!」と、サービス精神旺盛だ。なかでも『須坂煎餅堂』さんのお煎餅には選手の特徴を捉えた似顔絵が1枚1枚ていねいに描かれており、「ボアルースの選手たちを応援したい」という店員さんの心意気が感じられた。 また、公式グッズの種類も豊富で、“推しグッズ”の定番でもある選手のアクリルスタンドは、「通常バージョン」と「ゴールパフォーマンスバージョン」の2種類が用意されていた。その他にも、新年から使えるカレンダーや、寒さ対策の防寒グッズも充実。商品を吟味するファン・サポーターのウキウキしている様子を見ると、こちらまで高揚感が増してくる。 特筆したいのは、メディアへのホスピタリティも抜け目がない点だ。記者室の机に、メンバー表とともに一人1本ずつ飲み物が用意されていたことにも感動した。そうした些細な心遣いは「このクラブのことを伝えてほしい」という、クラブの思いを強く感じることができる。
タイトルを持ち帰り、ホーム最終戦へ
「また、この会場に来たい」 そう思える観戦体験を提供することができる長野は、地元の人々や企業からも愛される“地元密着クラブ”として、さらなる成長を遂げる可能性を秘めている。 だからこそ選手も「ボアルースを“いるべき場所”に戻す」と口をそろえる。 1年でのF1復帰を逃した昨シーズン、長野はリーグ戦で1敗しかしなかった。 「昇格するには、たった一つの負けも許されない」 その厳しさを思い知った長野は、チームの特徴でもある守備の堅さに磨きをかけた。今シーズンは15節終了時点でリーグ最少の20失点に抑え、無敗を継続している。 「去年も失点数はリーグ最少に抑えたのは同じですが、あっさりと決められてしまうシーンも多く、1試合で集中し続けるという点で課題感がありました。なので今シーズンは、簡単な失点を減らすことにこだわってきました。それは僕一人ではなく、全員で共通意識をもてていることが、今の結果につながっていると思います」 堅守の要を担う守護神・橋野は「まだなにもつかんでいない」と前置きしつつも、昨シーズンから成長したポイントを語った。 また、チーム最古参の松永翔は「これまでとは、チームを見る周りの目が違う」と、この1年での変化を感じていると言う。 「アウェイの北海道戦は、個人的にはもてる力を出し切った結果、引き分けで終わったという印象でした。でも、長野に帰ってきたら『勝てなくて残念だったね』と言われたり、引き分けが続いていることを心配する声も多かったりして、改めて『勝ちが求められるチームになったんだな』と実感しました。だからこそ、このあとズルズルと崩れるわけにはいかないと、今日は強い気持ちで臨みました」 2019-2020シーズンからF1でリーグ最下位が続いた4年間、しながわシティとの死闘の末に残留をもぎ取った2021-2022シーズンの入替戦、そしてF2降格が決まった、2022-2023シーズンの入替戦……。 そのすべてを知り、「降格させてしまった責任」を背負う松永は、この浜松戦で反撃のきっかけとなる同点弾を決めた。 今シーズンは入替戦がないため、リーグ優勝と同時にF1への自動昇格が決まる。2年越しの「目標達成」は目の前に迫っている。 「シーズン終盤のプレッシャーがかかる試合で、『自分がヒーローになる』というプライドをかけて戦う姿勢が、このチームにはまだ足りない。いいプレーができなかったのはなぜなのか、練習中になにをするべきか。もっと突き詰めて、自分と向き合ってほしい」 この日、1ゴール1アシストのキャプテンは試合後、今度は冷静な口調でチームに向けて、あるいは自分自身に向けて厳しい言葉を投げかけた。 長野での現地取材を終えた1週間後、11月24日の第16節、長野はマルバ水戸FCに2-1で勝利を収めた。同日に行われた北海道も勝利したため勝ち点4差は変わらないものの、残りは2試合。11月30日の第17節、デウソン神戸戦に勝利すればF2優勝が確定する。 “奇跡のF1残留”から3年。 「負けない自信」と「勝ち続ける強さ」を身につけたチームで、もう一度、あの舞台に立つために──。 12月8日、長野は悲願を決めて、ホーム最終戦に“凱旋”できるか。 もし、その時を迎えたのならばきっと、私が見たあの千曲のホームは、選手もスタッフも、ファン・サポーターもみんな、緊張から解き放たれた歓喜に満ちているに違いない。