自転車とクルマ 不幸な衝突が示す「すみ分け」の難しさ パリの窓
パリは今夏の五輪を機に自転車道がグンと広がった。4車線の大通りは一般車乗り入れが規制され、通勤の自転車が疾走する。急激な変化は摩擦と無縁ではない。 10月、自転車に乗った青年(27)が市中心部でスポーツタイプ多目的車(SUV)にひかれて死亡した。青年は自転車道に侵入したSUVを軽くたたいて抗議し、車体前に歩み出たところで悲劇は起きた。逮捕された運転手(52)は娘を医者に連れて行く途中、若者といさかいになってわれを失ったと主張。「わざとではない」と殺人容疑を否定しているという。 波紋は大きかった。現場近くに自転車族約100人が集まり、「安全に走れる街にせよ」「自動車の横暴を許すな」と訴えた。社会党のイダルゴ市長は「クルマは人を殺す」と言い、車体が大きいSUVの追放を目指す構えを示した。 とはいえ、大都会で車は簡単に減らない。狭い道が規制で渋滞し、運転手のストレスはたまる。自転車もマナー違反が目立ち、車列に割り込む危険走行や信号無視はザラ。時に、双方の怒鳴り合いになる。年配の知人は「道路を渡るとき、自転車に突っ込まれないかとヒヤヒヤする」と話す。 車線を引き直すだけでは、平和な「すみ分け」は実現しない。不幸な事件に、道路に渦巻く感情対立が透けてみえる。(三井美奈)