（写真：福島民報）

　矢祭町は隣接する茨城県大子町と観光振興の連携協定を今年度中にも締結する。山や渓谷などの自然環境を売りとした周遊ルートを構築し国内外から客を呼び込む。それぞれの魅力や観光資源を一体的に発信することで県境を越えて人の流れを効果的に創出でき、相互の地域活性化につながると判断した。まずは人気が高まっている自転車を核とし、今年開業９０周年を迎えるＪＲ水郡線も活用した施策を練っていく方針だ。 　協定に基づく新たな施策の詳細は今後詰めるが、矢祭町には景勝地・矢祭山公園や滝川渓谷、大子町には日本三名瀑（めいばく）の一つ「袋田の滝」などの名所があり、アユ釣り客も多い。両町とも自転車を活用したまちづくりを進めており、ＪＲ水郡線には自転車を分解・収納せずに車内に持ち込める列車「サイクルトレイン」が走っている。鉄路も生かし自転車愛好家が両町の魅力を一体的に楽しめる周遊コースを設け、集客力アップにつなげる。 　両町の近年の観光客数は【グラフ】の通り。２０２３（令和５）年度は矢祭町が１０万９４１２人、大子町が８４万７００３人だった。矢祭町は訪日客、大子町は東北地方からの客がそれぞれ少ないといった課題を抱える。矢祭町は主に東北各地や関東圏からの観光客が多く、大子町は首都圏からに加え近年はインバウンド（訪日客）も増えてきたという。両町が互いの観光資源をＰＲし合い、訪れた観光客に周遊を促す。例えば、袋田の滝を楽しみに大子町を訪れた人には矢祭町の滝川渓谷にも足を延ばしてもらう。課題の克服と一層の誘客につなげる。

（写真：福島民報）

　大子町は観光地の動画を交流サイト（ＳＮＳ）で発信する専門部署「タウンプロモーションチーム」を設置しており、都市部やインバウンドなどを対象にしたＰＲを展開している。そうしたノウハウも共有していく。 　本県と茨城、栃木の３県に県境３６市町村を加えたＦＩＴ構想推進協議会も広域的な観光振興に取り組んでいるが、地域の特性に基づいた施策を迅速、柔軟に展開するために町同士で連携を深める。 　関係者は協定締結により水郡線の利用促進も期待する。常陸大子―磐城塙の２０２３年度の１日当たりの平均通過人員は１４７人で、他の区間に比べて著しく少ない。県境区間の利用者増は鉄路の維持に欠かせず、大子町観光協会の菊池和則事務局長は「水郡線や久慈川など、地域の魅力を相互にＰＲできれば誘客の幅が広がる」と話す。矢祭町事業課は「人と人との交流を拡大し、人口減少が進む町の振興につなげたい」としている。