J1サンフレッチェ広島 青山敏弘引退 最高の引き際へ、最後までファン・サポーターのために
あれが、青山敏弘が引退を受け入れた瞬間だったのだろう。12日、安芸高田市サッカー公園。「家族、ファンの支え」をテーマにしたインタビュー中、前日、雨野強化本部長と話し合っていた彼は「まだもやもやする」と心の内を明かした。 【写真】エディオンピースウイング広島であったG大阪とのプレシーズンマッチでの青山 公言こそしなかったものの、今季で引退する覚悟で練習に打ち込んできた。ただ、そのときが近づくと「もやもや」が迫った。まだやれる、やり切った。相反する思いの間で必死に心を整理しようと苦しんでいた。インタビューは「まだ誰にも言っていない」という思いを聞く場に変わった。 青山は近年、選手人生の幕の下ろし方にこだわってきた。そして新スタジアム元年の今季。街は紫に染まり、チームは優勝争い。最高の展開に思えた。「スキーのジャンプで言えば飛距離はK点越え。もう十分。あとは着地を決めるだけ」。頭では分かっていても、現役への未練はくすぶった。 くしくもインタビューで「自分のためではなく、広島のファン、サポーターのために全力でプレーしてきた」と胸を張った。「仮に移籍して続けても、誰も幸せにならない。着地を失敗した人も見た」「応援してくれたみんなとの21年間を無にしたくない」。答えはもう、自分の中にあった。 「話してすっきりした。ありがとう」。右手でがっちり握手を交わした。最後の瞬間まで応援してくれる人のために走ると決めた男の顔は、実に晴れやかだった。
中国新聞社