東京五輪へ女子レスリングの17歳新星。女王・吉田が「私より速い」
リオ五輪後初のレスリング全日本選手権の第2日(22日・代々木体育館)で、女子48kg級で優勝したのは、2020東京五輪世代として期待される高校2年生の須崎優衣(17歳、JOCエリートアカデミー/安部学院高)だった。48kg級といえば今回はケガで欠場しているリオ五輪金の登坂絵莉(23歳、東新住建)がいるが、全日本合宿のスパーリングでは須崎が登坂を上回るときもある。東京五輪へ向け48kg級代表をめぐる戦いは混戦が予想されるだけに、須崎にも注目が集まっている。 須崎優衣は、東京五輪で活躍する選手育成を目的としたJOCエリートアカデミーに2013年に第6期生として入校し、いまでは現役女子高生だ。彼女が暮らす寮の部屋の天井には、アイドルやイケメン俳優のポスターではなく、表彰状が貼ってある。一年前の2015年12月21日、天皇杯全日本選手権で女子48kg級2位になってすぐ、須崎はその賞状を貼った。 「この悔しさを忘れちゃいけないと思って、寝るとき必ず見えるところに貼りました。毎朝、目が覚めると2位の表彰状が見えて、悔しい! よし、今日も頑張ろうって思えるんです」 スマホの待ち受けは、一年前、二番目に高いところに立った表彰式と銀メダルの写真だ。 悔しさの持続は、選手が飛躍するための大きなきっかけになる。 吉田沙保里は大学1年生のとき、全日本選手権準決勝で残り約10秒から山本聖子に逆転負けしたことをきかっけに、世界連覇の道を歩み始めた。登坂絵莉も、初めて出場した2012年世界選手権決勝で逆転負けしたのを最後に、負け知らずだ。伊調馨は、今年春のロシア遠征で負けたときの銀メダルを母の遺影の隣に飾り、悔しさを忘れずにリオ五輪へ臨み五輪四連覇を達成した。 須崎も、同じように勝ちたい気持ちをつのらせた。 「一年前の試合は初めてのシニアの大会だったけれど、絶対に勝つつもりでいました。年齢なんて関係なくて、勝つのは私だと思っていた。それなのに、何もできず10-0で負けてしまった。悔しさしかありませんでした」 それから約半年、ひとまわり体が大きくなった須崎は明治杯全日本選抜選手権で勝ち進み、全日本決勝で敗れた入江ゆき(自衛隊)と再び決勝で顔を合わせた。今度は、積極的にスピードのあるタックルを繰り返し、追い上げられても慌てず攻め続け勝利した。優勝が決まったとたん、幼さが残る顔を大きくゆがませて、全身で泣いて喜んだ。 「大会前のスパーリングでも勝てないままだったので、試合で本当に勝てたんだと思ったら自然と涙が出てきました。でも、今度の全日本は笑顔でマットを降りたいと思っていました」 言葉通り、それからさらに半年後の全日本選手権では、1回戦からすべての試合を無失点で終え優勝をきめた瞬間から、飛び跳ねるように喜んでセコンドのコーチに飛びつき表彰式、そしてマットを降りるまで、須崎は涙を流さず笑顔のままだった。もう表彰状はお役御免ではないかと聞かれたが「2位の表彰状は、これからも天井に貼っておきます」と、よどみない答えが返ってきた。