韓国総選挙:弱体化した尹政権の行方
堀山 明子
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の与党はなぜ敗北したのか。日韓関係を大きく改善させた尹外交は今後どうなるのか。ソウル大学日本研究所の客員研究員を務めながら、両国間を行き来するジャーナリストが4月10日にあった韓国総選挙の結果と政権の行方を分析する。
韓国議会の総選挙(定数300)で、尹錫悦大統領を支える与党「国民の力」(以下、国民)は、左派系の最大野党「共に民主党」(以下、民主)に惨敗を喫した。総選挙はそもそも現職大統領への「中間評価」だが、選挙戦はそのレベルを超えていた。野党側は、尹大統領の残り任期について「あと3年は長すぎる」と大統領弾劾訴追や憲法改正による任期短縮までも争点化するキャンペーンを張り、尹大統領に対する「政権審判の選挙」と位置づけた。惨敗でこうむったダメージは、与党よりも大統領の側が大きい。 「今回の総選挙結果は、弾劾に近い与党の惨敗だった。残りの任期3年余を大統領がちゃんと運営できるのか、不安に思う国民は多い」。こう評したのは、保守系の大手紙「朝鮮日報」の社説(4月13日)だ。尹大統領の妻・金建希(キム・ゴンヒ)氏の株価操作関与疑惑を巡り、野党が検察から独立した「特別検察官」に捜査させる法案可決を目指していることに触れ、「特別検察の議論が本格化する前に、大統領が事件について率直な立場を明らかにし、謝るべきことは謝るよう願う」と促した。 朝鮮日報は大統領府や首相官邸の報道官を輩出し、野党を批判する報道が目立っていた。それが一転して、野党に歩み寄るよう、大統領に注文を突きつけた。報道機関をウオッチする「メディアオヌル」が、「朝鮮日報が弾劾に言及した」との記事を配信するなど、韓国社会では驚きをもって受け止められている。 保守系の与党国民は、系列の比例政党を含めて108議席にとどまり、「ねじれ」の解消どころか改選前(114)より減らした。対する野党側は、民主が175議席(改選前156)を獲得し、単独過半数を維持。民主系列とは別の左派系比例政党「祖国(チョ・グク)革新党」(以下、祖国)の12議席を合わせると187議席になる。 180議席以上あれば、特定の法案を迅速処理でき、議会の野党主導がより強まる。ちなみに、野党が200議席確保したら、可決した法案について大統領の拒否権を覆せる。大統領の弾劾訴追や憲法改正も可能になる。