警察トップの自宅を双眼鏡で覗く男…オウム死刑囚が署長公舎前に?長官銃撃事件の前後で不審者情報多数
目撃情報F 事件前に目撃されれていた不審者
不審人物の目撃情報は、発生当日だけではなかった。 事件数日前から現場周辺では様々な不審者が目撃されていたのである。 発生から数日経った夕方の捜査会議は盛況だった。まず発生現場の外周部を担当する「地の3」の捜査員が発言した。 「地の3、小沼巡査部長(仮名)です。犯行3日前の3月27日の朝の不審者情報について報告します。 27日の午前8時17分ごろ、Fポートを出たところにある広場に、白マスクをかけ、黒い帽子をかぶり、明るいベージュのロングコートにグレーのズボン姿で、紙袋を持ったままEポート方向を見ている不審な男がいたそうです」 ピリピリした理事官がすかさず「それで?」と畳みかけた。 「この目撃者はEポートのマンションに警察の偉い人が住んでいると知っていたので、狙うために様子を伺っているのかなと思い、『もしもし、何をしているんですか』と声をかけたそうです。すると男は顔をふせ、何も言わずに東側階段方向に歩いて立ち去っていったということです」 年齢は30歳から40歳、身長170センチから180センチ、やや細身の男だったという。 この情報の目撃者は、不審者を見かけた当日の27日にわざわざ南千住署に電話で通報していた。 しかし通報を受けた受付の職員は、「はい、わかりました」とだけ答え、この情報を警備課など関係部署に伝えることはなかった。 もし伝えていれば地下鉄サリン事件の直後だ。それなりの警備態勢が敷かれていた可能性があり、事件の発生そのものを防ぐことができたかもしれない。 また、この情報が後々に重要な意味を持つものだとは、この時点で誰も知るよしもなかった。 一見膨らみのない話とみるや、理事官は「次!」といつものように怒鳴った。
目撃情報G 「長官の車?」話しかける男
「地の3の関川巡査長であります。 事件数日前の話なのですが、午前8時頃、ある研究所の役員を車で迎えに来たお抱え運転手の木村誠(仮名)が不審な私服の警察官らしき男から、『長官車ですか?』と話しかけられたそうです。残念ながら日付が特定できていません」 木村は役員車をアクロシティの北側の道で停め、車内で待っていたところ、突然40代くらいでメガネの男が運転席に近づいてきて、『警察の者ですが、長官車ですか?』と話しかけてきたという。 木村はその時、「いえ違います。長官の車はプレジデントかセンチュリーでもっと大きい黒い車です。前には運転手さんと秘書が乗っているのですぐ分かりますよ」と教えたという。 警察官を装った男は右手を左胸に当てるようにしていたので、木村は手帳を出そうとしているのかなと思った。男は「4~5日前に警備が交代したから分からないんです」とも言ってきた。 さらに男は、木村の車の運転席の前に備え付けられていた「優良運転手標章」についている警察の旭日章を見て、「どうして警視庁のマークがついているんですか?」と聞いてきた。 木村は「警察から頂いたものなのに、この人知らないのかな」と思ったそうだ。偽刑事じゃないかと不審に感じたという。 この報告に理事官は「何だと!?」と絶叫した。 「男はどんな人着だ?」と食い気味に反応した。 「身長180センチくらいで、体格はがっちりしており、髪は7.3分け、色白で眼鏡をかけていたとのことで、背広の上下でYシャツ姿にベージュのコートを着た男だそうです」と関川巡査長は即答した。 「先ほどのベージュのコートの男と似ているのか?」との理事官の問いかけに、関川がかぶりを振った。今しがた地取りから帰ってきたばかりだ。同輩はおろか上司とも話をする時間もなく会議に来ている。 ところが理事官は少しでも気になる点があると、すぐに掘り下げたくなる性分で、それを指摘することを任務としている。 「地取り捜査員にあっては、捜査会議前に情報の核となる部分を他の捜査員とも連携し少し摺り合わせしてから会議に臨んではどうか。摺り合わせをすれば、追加で確認したくなってくる話が見えてくる。得られた情報に関連情報がないか確認することで、情報が次の情報を呼び込み活きてくるんだ。連携を密によろしく!」と喝が飛んだ。 捜査員は咳払いすらしない。 その日以降、事件数日前の不審者情報がどんどん集まってきた。 事件現場周辺以外のアクロシティ内の聞き込みを担当する「地の2」が、現場を事前に下見したともとれる、怪しい男の情報を掴むのである。
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