「夢を諦めない全盲レスラーからパワーをもらう! 言い訳せず頑張らなくちゃ」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 名古屋へプロレス観戦に行き、デビュー間もない全盲のプロレスラー、大舘(おおや)裕太選手の試合を観ました。 大舘選手の存在は認識していました。彼のデビュー戦の相手がガンバレ☆プロレスの大家(おおか)健選手だったから。ネットで調べると、彼を特集したニュース記事が出てきたので、ちょっと要約します。 幼い頃、小児がんで右目を摘出。いじめられた過去があり、強くなりたいと学生時代に柔道で黒帯をとるまでに至ったものの、のちに左目も失明。それからは大好きなプロレスからも遠ざかっていたそうです。石川県で鍼灸師として開業し、1児の父となり幸せに暮らしていたところに、今度は膀胱がんが。肝臓にも転移し、死を意識した時に胸に浮かんだのが、プロレスラーへの夢だったそうです。そして、息子になにが残せるか。 自分がこの世からいなくなっても、夢を諦めない姿を覚えておいてほしい。そんな思いで一念発起して家族で名古屋に移住。練習生としての生活をスタートさせた大舘選手。 さて、今回対するはデスマッチを得意とする杉浦透選手。界隈では超有名な選手なれど、私が試合を観るのは初めて。 大舘選手は白杖をつき、セコンドに補助されながら登場。写真で見るよりガッシリしている印象です。リングサイドからスルッとリングにあがり、一礼して試合開始です。 私は驚きました。大舘選手の動きから、恐怖と迷いが感じられないことに。 相手を投げ、自分が飛び、関節技を決めて攻撃するプロレス。普通に痛いし怖い。デビュー間もない選手の試合からは、懸命さの陰に恐れがチラつくもの。しかし、大舘選手は全身で相手の技を受け、自分の技を繰り出します。負けん気が強い! 杉浦選手の攻撃も容赦ない! 大舘選手、「まるで見えているような動き!」ではないのです。後ずさりしながらコーナーの場所を確かめるし、相手をロープに投げるときも、投げた選手が戻ってくる場所がわかりづらいからか、自分も一緒にロープまで飛んでいく。それでも一度つかんだ杉浦選手の体を離さず担ぎ上げ、投げ飛ばす。自分が投げ飛ばされても立ち上がる。全盲を言い訳にしないのです。杉浦選手も汗だくでした。 今回、勝ち名のりをあげることはできませんでしたが、私も言い訳しないで頑張らなくちゃとパワーをもらいました。観戦できてよかった! じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年12月23日号
ジェーン・スー