スティーヴ・レイシー来日公演を総括 軽やかさと親密なムード、表現力豊かなギターで魅了
友人と接するようなコミュニケーション
他アーティストへのプロデュース参加曲も含め、レイシーの音楽は日常生活にフィットするようなサウンドが特長だ。しかし、ライブでは容赦なく受け手を圧倒し、ムードを自在に操る。それでいて観客からの声援に全て返事していたように、終始フレンドリーだ。とにかくエンターテイナーとして一流で、ショーマンシップに溢れた青年なのだ。 ギターのチューニングを終えると、ファンの間では一際人気が高い短めの弾き語り曲「C U Girl」を皮切りに、しっとりとしたローファイなギターサウンドでの弾き語りが続く。ジ・インターネットの「Curse」や「Infrunami」での歓声も大きく、一気に会場は親密な空間へと変貌する。客席でボードを掲げたオーディエンスのリクエストに応えて「HateCD」を披露する場面もあった。 実際にライブを体感して印象的だったのは彼が圧倒的に優れたギタリストであるという点だ。驚くほどヘヴィなプレイだったり、繊細な心情の機微を描いたような表現だったり、ギタリストとしての表現の幅が広く、それでいて歴史的な連なりも感じさせる。ギターのサウンドがムードだけでなくリズムまで規定しているようでもあった。 「Love 2 Fast」では徐々に明るいムードを醸し出し、レイドバックした重い「Buttons」でバンドにスイッチを入れる。当時18歳で制作された『Steve Lacy’s Demo』(アートワークはレイシーとギターの3ショットだ)から「Ryd」「Some」を歌い、おそらく2020年代の名曲として記憶されることになるであろう全米No.1ソング「Bad Habit」で緩やかに会場に幸福感が充満していく。ここでもレイシーはサービス精神旺盛だからなのか、長く引き延ばした間奏で裏からスタッフを連れてきてステージをやや賑やかにしていた。最後は「Dark Red」で無事大団円を迎え、最前列のファンが持つレコードにサインをして帰っていった。 レイシーはきっと、リスナーとの密なコミュニケーションをいつも大切にしているのであろう。友人と接するような軽やかな振る舞いを見ていると、この人がグラミー受賞アーティストでもあることも忘れてしまう。そういう人となりまで伝わってくるような一夜だった。
Shunichi MOCOMI