香箱ガニと偽装、販売 ズワイじゃない、北海道産オオズワイ 県内流通、人気便乗か
●格安、味劣る 北海道産のオオズワイガニが石川を代表する味覚の香箱ガニと偽って出荷され、県内のスーパーで販売されていることが17日、県漁協への取材で分かった。ブランド化の進んだ香箱の人気に便乗したとみられる。事態を重くみた水産庁は、食品表示法違反の可能性があるとして県に指導徹底を要請した。格安で品質の劣る偽物が出回ると、香箱の価格下落を招く恐れもあり、県漁協は市場関係者に注意を呼び掛けている。 ●漁協が市場に注意/水産庁は指導徹底要請 県漁協によると、昨年から県内のスーパーで「北海道産 香箱ガニ」「北海道産 コウバコガニ」などの表示が見られるようになり、今年に入り急増した。いずれも香箱ガニと定義される県産ズワイガニの雌ではなく、北海道産のオオズワイガニという。 店頭価格は香箱ガニが1匹800~1000円なのに対し、北海道産のオオズワイガニは1匹約300円。カニみそや内子の量は少なく、味も劣るという。漁協担当者は「ほとんどのスーパーで売られている」と憤る。 ●入荷時点で表示 オオズワイガニはズワイガニと品種は異なるが、見た目が似ており、素人が見分けるのは難しいという。県内の卸売市場に入荷した時点や、小売業者が仕入れた段階などでは「香箱」と表示されており、そのまま店頭で売られたり、飲食店で提供されたりしているという。 県漁協は、香箱ガニは県内で長く親しまれてきた地域特有の名称だと指摘。また、県内では香箱ガニの漁期を11月6日~12月29日としており、担当者は「時期外れの品には注意が必要」としている。 県漁協は漁業者と協力し、ブランド化を進めてきた。未熟な香箱ガニは網に掛かっても放流し、2023年には漁期前の禁漁区を拡大するなど資源管理も徹底している。「偽物」が出回ると、香箱ガニの評価が下がり、需要減や価格が下落する可能性がある。 ●漁業復興の妨げに 能登半島地震で被災した輪島港などではカニ漁を機に再建を目指している。香箱ガニが値崩れすると、被災した漁師の収入低下につながり、復興の妨げになることも懸念される。 県漁協は春先から対応を協議し、水産庁に対策を求めてきた。同庁は15日、石川を含め、11月6日からカニ漁解禁となる富山から島根の日本海側1府6県に対し、オオズワイガニを正しく表示するよう指導徹底を図るよう通知した。 県漁協も市場関係者や卸業者、スーパーなどに説明して回る。橋本勝寿県漁協理事は「香箱ガニは石川にとって最も大切な水産資源の一つ。粘り強く周知して守りたい」と話した。 ★香箱ガニ 石川県産ズワイガニの雌。雄は「加能ガニ」と呼ばれる。地域特有の名称で、泉鏡花が1927年に書いた小説「卵塔場の天女」に「香箱蟹」との言葉が出てくる。漁期を11月6日~12月29日と定めて資源管理を徹底し、2022年から最上級ブランド「輝姫」が設けられた。