最終日に指揮官から粋な計らい 突然のサプライズに涙…2年で戦力外も“輝かしい日”
最後の胴上げ…中嶋監督から粋な計らい
左澤氏は数秒間、ふぅっと呼吸を置くと“本心”を明かした。「ちょっとだけ寂しかったですよね。1回でいいので、胴上げに本気で入ってみたかったなぁ……」。その本音は、誰にも言ったことがない。日々のグラウンドでも「裏方は、表に出ないから裏方って言うんだよ」と自身を諭した。プロフェッショナルとして、マウンドに立ち続けた“5年間”だった。 ただ、その胸中を“解読”していた人物がいた。中嶋聡監督だった。左澤氏は昨年11月に行われた高知秋季キャンプまでチームに帯同した。キャンプ最終日の11月20日、練習を終えたナインはグラウンドで大きな円を描き、一本締めを行った。 次の瞬間、2018年ドラフトで同期入団した宜保翔内野手が絶叫した。「ひだりさーん! ありがとうございました!」。その掛け声と同時に、左澤氏はマウンド付近に引っ張り出された。これまで打撃投手として“快音”を響かせてくれた若手選手たちが集まってくる。「せーの!」。突然と始まった胴上げ。思い切り、両手を大きく広げた。初めての感覚だった。支えてくれる手が、ものすごく温かった。 「僕は本当に何も知りませんでした。でも、胴上げが終わって、ふと中嶋監督の方を見ると……。いたずらっぽく笑っていたんです。そこで、すぐにハッとしました。監督が選手たちに『あいつ最後だから、胴上げしてやろう』と言ってくれていたみたいです」 3連覇したチームで唯一、歓喜の胴上げに参加できなかった。その姿を指揮官は見ていた。「うれしいとか、そんな簡単な言葉では表せない瞬間でした」。宙に舞った景色を脳裏に焼き付け、また新しいスタートを切る。かつて選手に寄り添ったように、お客さんと目線を合わす新天地。人に出会う数ほどドラマがある。誰かが誰かを支え、誰かを喜ばす。人生は素晴らしい物語の連続なのだ。
真柴健 / Ken Mashiba