岸田総理がウクライナに持ち込んだ「必勝しゃもじ」は呪物と見られた? 宗教への無知が招く無自覚の罪
岸田総理がウクライナに持ち込んだ「東洋の神秘」
佐藤 そのヴィスコンティと似たようなことを21世紀にやったのが、われらが岸田総理ですよ。2023年3月21日に「電撃訪問」と称してウクライナ入りしたとき、ゼレンスキー大統領に広島の「必勝しゃもじ」をお土産に渡したじゃないですか。 あれ、われわれ日本人には広島の土産物だとわかりますけれど、ウクライナ人から見たら「悪魔の文字みたいなものが書かれた不気味な木のヘラ」ですからね。「これがあれば戦争に勝てます」と言われて、怖かったと思いますよ(笑)。 たとえば海外から魔術師を名乗る人物が日本にやってきて、意味のわからない文字の書かれたお札みたいなものを「あなたの敵を倒すために特別の呪いをかけてある」と言って渡されたら、ちょっと怖いでしょ。 そういう呪術的なものが、日本では総理大臣クラスでも生きているわけです。一神教の世界は基本的にまじない禁止だから、あれには東洋の神秘を感じたと思いますよ、ゼレンスキーたちは。 本村 断ったらどんな祟りがあるかわからないから、とりあえず受け取るしかないですよね(笑)。 佐藤 だって、日本からウクライナへの軍事支援はわずか40億円ですよ。高速道路1キロメートルつくるのに53億円かかるそうですから、40億円は高速道路を800メートル程度しかつくれない額です。ちなみにステルス戦闘機F-35は1機150億円。日本の国力を考えたら、まともに支援しているとは思えない額しか出していないわけです。 ウクライナから見たら、「その足りない分を、この不気味なしゃもじでカバーするのか?」と思うかもしれません。 本村 それでバランスが取れるとしたら、しゃもじの効力は凄まじいですよね(笑)。 佐藤 東洋の神秘おそるべし、ですよ。ロシアと西側諸国が一神教同士の価値観戦争をやっているところに、その宗教性に無自覚なまま、八百万の神を抱えて加勢しに行ったわけです。 本村 近代の限界が露呈しつつあるところに、前近代的な呪術を持ち込んだという意味では、結果的に空気が読めていたのかもしれませんけれどね(笑)。しかし、そんな考えはまず間違いなくなかったでしょう。 やはりキリスト教をはじめとする世界宗教への理解をもっと深めなければ、この戦争を契機に新たな局面を迎えるであろう国際情勢に対応できないのではないかと思います。 写真/shutterstock ---------- 佐藤優(さとう まさる) 1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、専門職員として外務省に入省。在ロシア日本国大使館に勤務し、主任分析官として活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、09年6月執行猶予付有罪確定。13年6月執行猶予満了し、刑の言い渡しが効力を失った。著書に、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『自壊する帝国』(新潮文庫)、毎日出版文化賞特別賞を受賞した『国家の罠』(新潮文庫)など多数 ---------- ---------- 本村凌二(もとむら りょうじ) 1947年、熊本県生まれ。73年一橋大学社会学部卒業、80年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、2014年4月から18年3月まで早稲田大学国際教養学部特任教授。専門は古代ローマ史。著書に、サントリー学芸賞を受賞した『薄闇のローマ世界』(東京大学出版会)、JRA賞馬事文化賞を受賞した『馬の世界史』(講談社現代新書)など多数。一連の業績にて地中海学会賞を受賞 ----------
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